ネンブツは自由そのもの〜『一億三千万人のための『歎異抄』』
◆高橋源一郎著『一億三千万人のための『歎異抄』』
出版社:朝日新聞出版
発売時期:2023年11月
親鸞の言葉を弟子の唯円がまとめた『歎異抄』に関しては、昔からいくつもの現代語訳や解説書が刊行されてきました。親鸞の言葉をすべて関西弁に訳した光文社古典新訳文庫のような試みもあります。そこに朝日新書が新たに名乗りをあげました。本書は高橋源一郎による現代語訳と少し長めの解説を収めたものです。
かの有名な一説「善人なおもて往生をとぐ、いはんや悪人をや」はどの注釈書を読んでもしっくりと納得させられることはなかったのですが、本書はどうでしょうか。
高橋の現代語訳は以下のごとしです。
当然ながら誰が訳そうとも「本願他力」の意味が問題になることに変わりはありません。さて高橋の読み解く「本願他力」とは?
高橋が読み取った「悪人」なる概念はキリスト教における人間の原罪とは異なるのでしょうが、まったく無縁とも思われません。歎異抄にとっても悪人とは奥深い概念であることを再認識させられました。
もう一点、念仏の意味についても高橋の読解は独特です。
「ネンブツとは自由そのもののことなんだ」というのです。むろんそのような解釈にはあまりにも現代的という批判もありうるでしょう。が、私は面白いと思います。それくらいの大胆な読みをしなければ、七百年以上も前に著された書物を今読むことの意味を積極的に感知することはむずかしいでしょう。
親鸞の宗教性は「非僧非俗」からやってきた、「宗教」というものを一度否定しないかぎり、「信仰」の奥底へは行き着くことができない、というパラドキシカルな解説も私には興味深く感じられた次第です。