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源ちゃん節を味わうには適切な一冊!?〜『「不適切」ってなんだっけ』
◆高橋源一郎著『「不適切」ってなんだっけ これは、アレじゃない』
出版社:毎日新聞出版
発売時期:2024年5月
高橋源一郎がサンデー毎日に連載しているエッセイの単行本化。
『これは、アレだな』 『だいたい夫が先に死ぬ これも、アレだな』につづく第三弾です。
テレビドラマ『不適切にもほどがある!』への言及に始まって、「不適切」とされた大江健三郎や深沢七郎の小説へと話をすすめる冒頭の一篇から源ちゃん節が全開。「倍速」視聴の時代にあえて宮沢章夫の『時間のかかる読書』を取り出し、超絶スロウ・リーディングを試みたりするのも源ちゃんの面目躍如といったところです。
キリーロバ・ナージャの『6ヵ国転校生 ナージャの発見』からは世界の多様性を読みとり、「過去のどこかに、あるいは世界のどこかに、互いに類似することがらがある」という本シリーズのコンセプトに留保をつけるのも一興。「これは、アレじゃない」という認識もまた「世界の豊かさを知る優れたやり方」だというのです。
土井善晴が提唱する「一汁一菜」を親鸞の専修念仏と関連づけて考察するかとおもえば、『推しの子』と川端康成を対比させるのもおもしろい。選挙における「泡沫候補」と後藤繁雄が編んだ『独特老人』(埴谷雄高、淀川長治、吉本隆明などが遡上に載せられている)をならべて論じるのはいささか無理があるように思われましたが、そうした強引さもまた本書にアクセントを加えているというべきでしょうか。
というわけで、本書でも高橋の思考の柔らかさやエスプリがそこここに横溢しています。エッセイスト高橋の妙味を味わうにはまことに「適切」なシリーズといっておきましょう。