外国の鎖に縛られることはつらい屈辱〜『麦の穂をゆらす風』
1920年代、英国の支配下で辛酸を舐めていたアイルランドの若者たちが蜂起します。この映画は、前半は英国軍との苦闘、後半は中途半端な停戦協定に意見を二分させた自治領での絶望的な内戦を描きます。
タイトル『麦の穂をゆらす風(The wind that shakes the barley)』は、アイルランドの伝統歌からそのままとられたものです。
ふたりの絆を断ち切るつらい言葉は
なかなか口にできなかった
しかし外国の鎖に縛られることは
もっとつらい屈辱
だから私は彼女に告げた
「明日の早朝あの山へ行き、勇敢な男たちに加わる」と
静かな風が峡谷をわたり
麦の穂をゆらしていた
(茂木健訳)
戦闘が行なわれるアイルランドの丘陵地帯は、その歌のとおり、いつも風がそよいでいます。そよ風を切り裂くように、かわいた銃声が響きわたる。この作品にあっては、ラストシーンに至ってもなお「救い」や「希望」が明確に描かれることはありません。
風に吹かれるがまま穂をゆらす麦のように、若者たちもまた時代の波にのまれ、自分たちの運命を狂わせていく……。
これは、完成された作品であると思います。
だが、どうでしょう。見終えた時の、感銘とも表現しかねる重苦しい思い。
もっと俗っぽくいえば、いかにもアイルランドの苦難の歴史をお勉強させていただきました、という畏まった気持ち。
……いや、それもまた映画なのだと監督のケン・ローチの静かに呟く声が、風にまじって聞こえてきそうです。2006年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作品。
*『麦の穂をゆらす風』
監督:ケン・ローチ
出演:キリアン・マーフィー、ポードリック・ディレーニー
映画公開:2006年5月(日本公開:2006年11月)
DVD販売元:ジェネオン エンターテインメント