アニミズムに基づく社会へ〜『資本主義の次に来る世界』
◆ジェイソン・ヒッケル著『資本主義の次に来る世界』(野中香方子訳)
出版社:東洋経済新報社
発売時期:2023年3月
資本主義の問題点を指摘する書物はすでに多く刊行されていますが、本書は経済人類学者によるポスト資本主義の書です。
誰もが指摘してきたように、資本主義を駆動する成長志向のメカニズムは人間のニーズを満たすのではなく、満たさないようにすることが目的です。あれを買えば次はこれを、これを買えば次はあれを、という具合に。ゆえに人の欲望は際限なく膨張させられ、消費へと導かれていきます。当然ながら地球に眠る資源も人間の労働力も搾取され続けることになります。
そこで成長に依存しない資本主義後のシステムを構想しなければなりません。本書では「大量消費を止める5つのブレーキ」として具体的な対策を提唱しています。「計画的陳腐化を終わらせる」「広告を減らす」「所有権から使用権へ移行する」「食品廃棄を終わらせる」「生態系を破壊する産業を縮小する」……の五つです。
ちなみに「計画的陳腐化」とはわざと長持ちしない製品を作って買い替え需要を喚起することを指します。
さらに、公共財を脱商品化しコモンズを拡大する、国内・国外を問わず債務を帳消しにする、新たな経済のための新たな資金(公共貨幣システム)を調達する──といったことを提案しているのも型どおりといえるでしょう。
この一連の論考のなかで思想的なベースとなっているのは、デカルトによる二元論を徹底して批判すること、すなわちアンチ二元論的立場です。
デカルトの二元論は「人間」と「自然」を分離しました。その思想にもとづいて、資本主義は、自然や身体を「外部化」し、「ニーズ」や「欲求」を人為的に創出するようになったのです。ゆえに資本主義を放棄するためには、それを支えてきた二元論をも放棄しなければならない──。以上が本書の基本認識となります。
そこで、デカルト的二元論に対抗する思想として持ち出されるのがアニミズムです。「世界は人で満ちているが、人間はその一部でしかなく、常に他の生物との関係の中で生きている」とみなす考え方です。そこでは人間と自然を区別しません。
もちろん私はそうした世界観・倫理観に同意します。しかし本書の最後にアニミズムのような抽象論を強調するまとめ方には違和感を拭えません。ポスト資本主義の世界を具体的に構想しようという時に本書の文脈ならば当然出てくるはずのマルクスの名もコミュニズムなる概念も周到に回避されているのは何故でしょうか?