異人たちとの交流から愉しい本が生まれた!?〜『編集を愛して』
◆松田哲夫著『編集を愛して アンソロジストの優雅な日々』
出版社:筑摩書房
発売時期:2024年10月
筑摩書房で『ちくま文学の森』シリーズや『ちくまプリマー新書』などを手がけた編集者・松田哲夫のエッセイ。
サブタイトルにもあるように松田はアンソロジーの編集で名を馳せる編集者です。アンソロジーとは「国別、流派別、主題別など、一定の基準で選ばれた詩歌集・文芸作品集」のこと。松田自身にとっても、出版界にとっても「いろんな意味でエポックメイキングだった」のが『ちくま文学の森』だといいます。1988年2月から翌年4月までに全16巻を刊行して、累計108万部に達する大ヒットとなりました。
前半では、このシリーズの創刊からビッグヒットに至るまでの経緯が事細かに綴られています。安野光雅、井上ひさし、池内紀、森毅が編者となり、「今読んで面白いもの」という基準で作品選びが行われました。編集会議はほとんど「放談会」の様相を呈したといいます。装丁は当然ながら安野光雅が担当しましたが、その斬新さは前例のないものでした。カバー表面にある文字は巻タイトルだけで、シリーズ名、巻数、編者名、出版社名は入っていません。
刊行直前の書店の評判は散々だったらしい。「文学は売れないよ」「タイトルのつけかたが子どもっぽい」……。しかしふたを開けてみると注文が殺到。「直球勝負でいったことが大正解だった」と松田は述懐します。「楽しく仕事ができた時には、できあがった本のどこかに、その雰囲気が滲み出て、読者を引き寄せると思う」。
このほか、漫画雑誌「ガロ」編集部との交流、野坂昭如らがつくったラグビーチーム「アドリブ倶楽部」や赤瀬川原平と路上観察学会にまつわる回顧談も貴重なものだと思います。水木しげるや鶴見俊輔、大江健三郎たちのエピソードもそれぞれに興味深い。