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そして映画はつづく

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ZAQブログ『コラムニスト宣言』に発表した映画レビュー記事がベース。ZAQ-BLOGariのサービス停止に伴い、記事に加筆修正をほどこしたうえでこちらに移行しました。DVD化され…
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#アレクサンドルソクーロフ

「土煙映画」の傑作!?〜『チェチェンへ アレクサンドラの旅』

見ているだけでゲホゲホするような土煙を画面全体に活き活きと描いてみせた映画といえば、私のような単純な映画好きはジョン・フォードの『駅馬車』を真っ先に想起してしまうのですが、ここに我が〈土煙映画〉の歴史に名を刻む秀作が新たに一つ加わることになりました。アレクサンドル・ソクーロフ監督の『チェチェンへ アレクサンドラの旅』がそれ。 とにかく冒頭からエンディングまで、土煙がモウモウと立ちこめる様が見事なまでに描出されているので、それでなくても時節柄喉の調子が良くない観客も少なくな

天皇が神から人間になった〜『太陽』

これは不思議な魅力を湛えた映画です。 一言でいえば、終戦直前から敗戦後にかけて、昭和天皇ヒロヒトが「神」から「人間」になる過程を描いたものといえます。その歴史的転換期の天皇自身にスポットを当て、その内的葛藤や孤独感を浮き彫りにするというコンセプトです。 天皇を「人間ドラマ」の主人公とすること。日本人の映画作家には困難だったこの主題にロシア人の映画監督が挑んだ点にこの作品の存在価値があるといえるでしょう。 御前会議に出席するために天皇が軍服に着替えるのを手伝う侍従の、ボタン