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そして映画はつづく

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ZAQブログ『コラムニスト宣言』に発表した映画レビュー記事がベース。ZAQ-BLOGariのサービス停止に伴い、記事に加筆修正をほどこしたうえでこちらに移行しました。DVD化され…
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#加瀬亮

オムニバス的人間ドラマの秀作〜『海炭市叙景』

九条にあるシネ・ヌーヴォは大阪では最もミニシアターらしいミニシアターの一つ。商店街から少しはずれた住宅街に位置するこの劇場は、池袋にあった旧文芸座地下劇場にもう少し温かみを加味したような作りと雰囲気とでもいえばよろしいか。面白いのはロビーの壁面いっぱいに、ここを訪れた映画関係者のサインがぎっしりと書かれていることです。新藤兼人、岡本喜八、長谷川和彦、柳町光男、大森一樹、平山秀幸、河瀬直美、行定勲、草村礼子、麻生久美子……。早坂暁や谷川俊太郎の名前もみえます。寺山修司の名も残さ

日本の刑事裁判を再考しよう〜『それでもボクはやってない』

「痴漢の冤罪事件には、日本の裁判の問題点が詰まっている」──役所広司扮する弁護士のこのセリフが、この作品の問題意識を端的に言い表わしています。 周防正行は、素材の面白さで勝負してきた生粋の映画監督ですが、本作では、エンターテインメント性にあえて固執せず、一心不乱にわが国の刑事裁判への疑問をスクリーンに定着させることだけに集中しました。結果、2時間23分の長丁場を一気に見せ切ってしまう見応え確かな映画が私たちの眼前に出現することとなりました。 日本の刑事裁判の有罪率が99%