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アーモンド・スウィート テレビを見続けている

 今日も、勉強もせずテレビを二時間、三時間と見て過ごしていた秀嗣。途中、何度も母から「勉強はどうしたの?」と怒られた。でもテレビの前から動かなかった。三時間のテレビのなかで面白かった番組もあった、へーっと感心させられたドキュメンタリー番組もあった、秀嗣にはまだ理解できない大人の恋愛を描いたドラマもあった。CMも沢山見た。
 でも、なにも頭に残らなかった。全部三十分あとには思い出せないのが不思議で、少し悔しかった。自分は11歳でボケ老人のようにバカになったのかと悲しくもなった。

 きっと珠恵は、この三時間の間もお茶に水の塾に居て、講師の話を真面目に聞き、問題の書かれたプリントを何枚もこなしていただろう。塾で一緒に勉強して仲間たちと、中学受験向けてに気持ちが燃えていただろう。
 秀嗣は、珠恵のような様子が羨ましい。学校での授業や、学校での問題集を解くのは好きだ。自分は勉強が好きなんじゃないかと思ったりする。しかし、テストは大っ嫌いだ。強制される勉強も大嫌いだ。先生に勉強のことで怒られるのも大っ嫌いだ。家での勉強も嫌いだ。だから家では勉強をする気がおきない。テレビが気になる。毎週のマンガの続きが気になる。お腹がすぐに空き、夕ご飯だけでは足りない。父ちゃん母ちゃんは夜遅くまで仕事をしていて、二階に家には帰ってこない。一人で夜食を作って食べる。食べた後の食器を洗う。父ちゃん母ちゃんが仕事で疲れて帰って来るから、風呂を沸かして待っている。
 父ちゃん母ちゃんが風呂から出て寝るまでの間に、今日、学校であった事を面白おかしく話して聞かせる。一時間、二時間すると母ちゃん、弟の博嗣、父ちゃんの順番で寝に行ってしまう。一人だけ残される。聞くだけになったテレビを消して秀嗣も寝る支度をする。秀嗣は、じいちゃんばあちゃんと一緒に寝ている。じいちゃんばあちゃんは夜遅くまで、自分たちの部屋でテレビを見ている。テレビの音を聞きながら秀嗣は目を瞑る。音がうるさくて直ぐには寝られない。それでも、目を瞑っていればいつの間にか寝てしまい、目覚めれば次の朝がくる。
 起きるまでの目を開かない間の、ちょっとした時間に、昨日も勉強をしなかったと後悔する。そして徐々に目を開けながら、今日は学校から帰ってきてからも勉強をしようと心に決める。行くことにした塾は週二日で、水曜日と土曜日。人志や珠恵が通っている塾のクラスは週四日。月火木金。それでも足りないと感じる人たちは土曜日も通えるクラスに特別に通っていると、人志が教えてくれた。「秀嗣もずる休みせずガンバレよ」と言った。塾も嫌いだけど、珠恵と一緒の中学に行くためには、人志と珠恵の半分しか通わなくても、塾での勉強も欠かせないと思う。嫌だけど、必要と思うからガンバッテ通おうと思う。
 じいちゃんがテレビを点ける。朝の番組の音がする。

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