つれづれエッセイ 白木蓮
春になると思い出す記憶がある。
かれこれ、もう20年くらい前のこと。
色々とあって大学を中退し、色々と家族とあり、
さらに当時の彼氏とうまくいかず、仕事も正社員なんて遠い話で、
勤めていた温泉のマッサージ店で、施術中にベッドから落ちて
お客さんを怪我をさせてしまい、やめて
ビジネスホテルでアルバイトをしていた。
世の中に絶望はしていなかったけど
希望の光が見えていたわけではなく
もう具体的な理由は覚えていないんだけど
なんだか生きているのがしんどかったことを
うっすらと記憶している冬
アルバイト先から自転車で帰宅する際、いつもの場所で信号を待っていた。
しっかりと記憶している、凍てつく寒さ。
「辛い」って思った。
ふと見上げた視覚の先に、
コンクリートで地面を囲まれた四角の中に立っているその木が
なぜかその時、急に目に入った。
大きな蕾をいくつもいくつも細い枝につけて
薄暗い真冬の刺さるほど冷たい空気のその中に
ハクモクレンの木が立っていた。
その時
「ああ。そうか。蕾は一番寒いときにできるんだ」
「ああ。そうか。蕾は一番寒いときに大きくなるんだ」
「春に花が咲くまで、もうすぐなんだ」
「花が咲く前が、一番寒いんだ」
そう思った。
自然って、当たり前みたいに
人生の大切なことを、いつも私たちに教えてくれてる。
何かで読んだ。
「辛い」という字、もうすぐで「幸せ」なれそうだ。と。
それから、20年くらい経っても
いつも鮮明に
このなんてことない
忘れてしまいそうな
誰も知らない
ささやかすぎる日常の中で見つけた「幸せ」を
お守りのように
今もずっと大切にしている。
あと1年だけ、あと1ヶ月だけ、あと1週間だけ、あと1日だけ
あと1時間だけ、あと1分だけ耐えてみよう
あと少しで花が咲くのだから。
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