新婚1年38歳、癌になる! #004
会社務めをしていなくとも病院へおもむけばいつでも人間ドックは受けることができる。しかし人間というのは強制力が働かないとまあまあ動かないものである。
それはお前のような愚かな人間だけだと言いたいかもしれないが、そこは健康意識の高い己の優秀さを誇るべきであって私を貶めるべきではない。なぜならば私は非常に打たれ弱いからだ。是非優しくしてもらいたい。
胃カメラも終わり結果はお盆に重なるので明けたら来てくれと告げられる。胃酸を抑える薬だけもらい、ナスとキュウリが盆棚から消えるのを待つことにした。
しかし牛馬が飾られるには幾ばくか早い頃、電話が鳴った。事件である。スマートフォンとは名ばかりのゲームアプリ専用筐体が音を出したのだ。こんなものは詐欺と相場が決まっている。
無料で私の話し相手をしてくれるというのである。兎の心を持つ私にはありがたい不定期サービスだ。今日は、事故を起こし示談金が払えず困っている息子役でも演じようか。そんなことを考え電話に出ると意外な相手であった。
先日、胃カメラをしてくれたクリニックである。胃カメラを十二指腸に使ったことへの謝罪だろうか。だが話を聞いていても一向に謝る気配はない。
要約すると、検査結果が出たのでお盆休みに入る前に来いということらしい。お盆明けに来いと言ったりお盆前に来いと言ったり忙しいクリニックである。
スケジュールにも問題はないので指示された日に行くことにした。そう、私は権威の前では大人しく従うできた人間なのだ。
後日談になるが、妻は結果を前倒しに報告してくるときは悪いしらせの可能性が高いのでとても心配していたらしい。そういうものなのか。ということは、芸能人格付けチェックで某ミュージシャンが間違えるときは、結果発表の声がクリスマスくらいに聞けることだろう。
私はというと何も考えていなかった。楽天的というべきか合理的というべきか、検査結果を聞かないことには何もしようがない。頭を空っぽにして夢を詰め込むだけである。
そして結果発表の当日、クリニックへ行き名前を呼ばれるのを待った。1時間ほどしてようやく名前が呼ばれた。何もおかしなことではない。クリニックは待たされるもの、そうではない。
私は時間を守るのが苦手、これが原因なのだ。初めて待ち合わせなどをすると1時間ほど早く現地へ行ってしまうのだ。つまり時間きっちりに対応してくれる素晴らしいクリニックということである。
ちなみに余談だが、時間にルーズと言っても慣れてくればきちんと10分くらい遅刻をするようになるので安心してほしい。
良くない結果だったよとドクターは言った。若いのに珍しいのだけど癌であると告げられた。
面白いものである。癌と告げられても負の感情はこれっぽっちも湧いてこない。手術をすると1週間くらい仕事休まないといけないのかなという過少に間違った心配をする程度である。
実際は復帰に1カ月ほどかかることや完全に復帰するには数カ月はかかることを聞いても、仕事に対する心配はしても体に対する心配をすることはなかった。
手術をするのは私ではない。医者の指示をしっかり聞いてあとは信頼して任せる。それで駄目なら仕方ないという考えが根本にあるのだ。そして、日本の標準医療を絶対的に信用しているのだ。しかし、いざというときはどういう反応を示すのかは自分でもわからない。その結果を見るのは50年ほど先であってほしいものである。
こんなものいつまでも体に残しておいてもいいことないからね、と言われ総合病院へ紹介状を書いてもらった。
そして、妻と両親にだけ結果を話しておくことにした。弟だけ仲間外れである。
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