第三十五話 恐怖の夜行バス
再びローカルバスを乗り継ぎ、東海岸沿い、南へ南へとと下る。
バスでは地元の高校生と仲良くなり、話す。この頃になるとマレー語も上達してきて、かなりコミュニケーションが取れるようになっていた。
この辺りは旅行者など、外から来る人達が沢山来るような場所では無い。のんびりと地元の人々を乗せながら、進む。長閑だなあ。
しかし実は長閑な昼間のバスと違って、昨晩の夜行バスは真逆の、「恐怖の夜行バス」でした。
今日は、そんなエピソードを書いていきます。
夜行に選んだのは大型のベンツバスで、次の街までをゆったりと移動。座席も大きく、道も舗装され快適なバスの旅。今日は、ゆっくり寝よう。
そう思って、ウトウトとし始めた頃、問題が発生しました。
それまで順調だったバスが、急に速度を早めたり、急ハンドルを切ったりと、おかしな行動を始めたのです。
いやに蛇行してるな…
僕は目を覚ます。
もしや居眠り運転じゃないだろうな?
僕の座席は前から五番目くらいだったのですが、運転手の席の後ろまで(結構空いていたので)行って、その様子を確かめる。
すると運転手の目がおかしい。
明らかに、臨戦態勢というような状態。
実はこの時、既にカーチェイスを始めていたのです。
相手は同じ大型バスで、同じ路線を運行するライバル会社。
前に出るライバルを追い抜こうと、急ハンドル切り速度を上げる。しかし相手はその進路を塞ぎ、前に行かせないようにする。
かなりの速度で運転してるのに車間距離が1mあるかないかのギリギリを掠めながら、もう一度仕掛け、今度は追い抜くウチの運転手。
それを更に抜こうとしてくる、ライバル会社。
今度はこちらが妨害する。対向車も来るのでかなり危ない(片側一車線)。
「これ、どっちも乗客乗ってるし、一歩間違えれば大惨事だ……」
浅野さんは一番後ろの席で、のん気に寝ている。
一番前の席に座っていたドイツ人は、恐怖に顔が引き攣り、座席にしがみついている。
運転手に物言いたいが、言えるような状態ではない。
ハンドルを力強く握り、前のめりになって運転している。
言っても、たぶん何も聞こえないだろう。
最早、仕事をしてる事すら忘れてるのかもしれない。
そんなカーチェイスが1時間以上、続いた頃でしょうか。
遂にバスが接触をしたのです。
ガチッ!!
前のバスにぶつかる、僕の乗るバス。
二台が急ブレーキをかける。
「遂にやったか。。」
掠る程度だったので、ホッとする僕。
ドイツ人は下を向いて顔は青ざめ、固まったままでいる。一言も言葉を発しない。
怒りの形相で、バスの扉を開け、前のバスに走っていく運転手。
前の運転手も降りてくる。
口論が始まる。
いい加減にしてくれ。。
暫くして、バスに戻ってくる運転手。
やれやれ。。
今度は安全運転してくれよ。
「やっと出発か」
そう思った矢先、また運転手が降りていく。
今度は角材を手に。
マジっすか?!(どこにそんな物を??)
前のバスの後部をバンバン叩き、破壊し始める運転手。
慌てて降りてくるライバル会社の運転手。
今度はつかみ合い、殴り合いの喧嘩に。
他に走っていた車も大型バスが道の真ん中で2台道路を塞いで停まってるので、車から降りて一部始終を見ていた。
なので二人の喧嘩が始まると、皆の仲裁が入り、何とか事態は収束しました。
しかし客を乗せた運転手同士がカーチェイスなんて(しかも降りて喧嘩など)、全く仕事の意識が、プロドライバーとしての意識があるのだろうか…。
僕はその後も殆ど寝る事もなく、朝まで過ごしました。ここでぐっすり眠れるような神経は、持ち合わせてないので。
後ろの席で爆睡してる浅野さんが羨ましい。
そんな事がトラブルがありつつ、中継地点の街に到着。
そこから昼のローカルバス乗り継ぎ、東側最大の街、クアンタンへと到着したのでした。
ここは第二次世界大戦時、日本軍が最初に空爆を行った辺り。反日感情も未だ根強い。
相変わらず、平穏な時が一切無い、僕の旅。
そんなクアンタンでの滞在では、何が待っているのだろうか_。
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