第三十二話 お前が思うより、僕は凄い
いつもの様にのんびりとした空気の流れるレストラン。
浅野さんは本を読み、僕は木の上から降りてきたリスに餌をやる。従業員はイタリア人のお姉ちゃんをナンパしてる笑
もう一人の従業員、弟の方はハンモックで昼寝している。ブウはいつもの定位置で昼寝している。
そんないつもと変わらないのんびりとした空気の中で、ある事が起こりました。
穏やかな空気が流れる中、突然、ガタッと音がしました。僕はその音の下方に目をやる。
と次の瞬間、さっきまでいつもの定位置、木の床の上で昼寝をしていたブウが、なんとその一瞬で僕達の居るテーブルの上に移動していたのです!
驚く僕!浅野さんもビックリしている。
そしてリスも。
一瞬遅れてリスが逃げ出す。
テーブルから手すりに飛び移り、そこから木へと飛翔。
しかし、「あの」ブウもその後を追い、手すりに飛び移り、木まで一気にジャンプしたのです。そして木の上まで駆け上がる!
今までに見た事がないくらいに軽やかな動き。しかも柔らかく、滑らかな動き。
そして何と木の上まで行って、リスを捕らえてしまったのです。
軽やかに床の上に戻るブウ。
リスは銜えられ、固まっている。
誰がブウのこんな動きを予測していたでしょう。従業員も、イタリア人の女のコも、浅野さんも、僕も、そしてリスも(多分)、みんな驚いている。
するとブウはそのまま口にリスに咥え、僕の前へと来たのです。
食べるわけではないらしい。
僕にホラと持ってきたブウは、そこでリスを放す。
慌てて森へと逃げ込むリス。
本当に驚きました。
今考えてみるとブウは僕がいつも「デブ、デブ」言うものだから、「俺はお前が考えているよりも凄いんだぞ」
という事を僕に見せたかったのかもしれない。
その時はただ、ただ、驚いていましたが。
なんにせよ、それ以降、僕の中のブウのイメージは「ただのデブ」から「軽やかなデブ」に変身したのです。
そしてその後は何事もなかったように、いつもの定位置で寝ているブウ。
見直したよ、ブウちゃん。
そんな小さな発見、小さな出来事をこの島で過ごしてきましたが、いよいよ離れる事になりました。
浅野さんと僕はこの島の小さな海亀を見た事で、「海亀の産卵を見たい」という話になり、世界最大の海亀「レザーバック(日本名は知りませんが)」の産卵を見れる場所があるとの情報から、次の目的地はそこにしようという話しになりました。
そうときまれば、後は行動あるのみ。
長い滞在になったので、名残惜しいが、 バックパックに荷物を詰める。
隣のイギリス人達は出掛けている。
帰ってきて、僕らが出発したと言ったら何と言うかな。
ブウのレストランで、船が到着するまでの間、荷物を詰め直す。何しろ荷物が多いので、毎回毎回、バックパックがはち切れそうな状態だった。
その時、ブウはいつもの定位置ではなく、何と僕の足元近くで寝ていたのです。
ブウは僕が出発するというのが分るかのでしょうか。何も言わないけど、目を瞑っているけど。。。
僕はブウを撫でながら、話し掛ける。
「ブウ、毎日食べてばかりいると猫じゃなくて、豚になっちゃうからな。豚になったら、こんがり丸焼きにされて、食べられちゃうよ?マカンだよ?早死にだよ?運動して少しは痩せるんだよ。」
ブウは少し目を開け、僕を見る。
また目を瞑る。
そして僕らはブウとレストランの従業員、まだ滞在する旅行者達にさよならを言い、船へと乗り込んだのでした。
「バイバイ、ブウ。」
ネコの一生は、人より短い。
もう会う事は無いかもしれないけど、元気でな。
少しでも長生きするんだよ。
また、いつか会いに来るから。
船はプルフンティアンを離れ、沖へと出て行く。だんだん遠くなるブウの居た島、プルフンティアン。
次の目的地を目指し、船は進むのでした。