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避けきれないイデアル〈龍孫江の環論道具箱〉
2回かけて素イデアル避けを紹介してきました.とりわけ素イデアルでないイデアルを含む場合の主張は,なんとも「これどうなってるんだ?」と感じさせる部分があります.
定理(Prime Avoidance改・再掲)
$${P_1, \ldots, P_n}$$は高々2個を除き素であるイデアルとする.$${I}$$をイデアルとするとき,各$${t}$$に対し$${I \not\subset P_t}$$ならば$${I \not\subset \bigcup P_t}$$である.□
この「高々2個を除き素」という条件について,「素でないイデアルを含む場合はほとんど使ったことがないはず」と述べたところ,膝を打つようなご指摘を頂きました.(素イデアル避けを使っている意識もなかったのです)
正則局所環の文脈で、m/m^2の非零元をとる(つまりm^2と素イデアルたちから回避する)のはたまに見るけど、二つ素でないイデアルがあるのは見ないなぁ…… https://t.co/oV1rgSEe7L
— みつ (@N_Mts23) January 27, 2025
さて,本題に進みましょう.今回の話題は,素イデアル避けにおいて「3個以上素でないイデアルの族は避けきれるか?」です.これについては,次の例が存在します.
例(避けきれない素イデアル)
$${A = \mathbb{F}_2[X,Y]/(X,Y)^2}$$のイデアル
$${ P_1 = (X)}$$,$${P_2 = (Y)}$$,$${P_3 = (X+Y)}$$
および$${M = (X,Y)}$$
とおくとき,各$${t}$$に対し$${M \not\subset P_t}$$だが$${M = P_1 \cup P_2 \cup P_3}$$である.□
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龍孫江の環論道具箱
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