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【番外編】お母ちゃんは、「セミリンガル」「ダブルリミティッド」。

ヨーロッパフランス語圏に到着してまだ間もない頃。フランス語教室で同じクラスだった20代日本人女性と、初対面でこんな会話をして、お母ちゃんは初めて「セミリンガル」という言葉を知りました:

女性:「shibachanさんは、この語学学校で英語も勉強していますか?」

お母ちゃん:「いえ、私は英語は大丈夫なので、フランス語だけです。」

女性:「でも、英語は上級コースまでありますよ。」

お母ちゃん:「小学生の頃からイギリスに住んでいたので英語は大丈夫なんですが、フランス語が必要で。」

女性:「そうなんですね。よくセミリンガルで大変と聴きますが、shibachanさんは大丈夫ですか?」

お母ちゃん:「・・・た、た、たぶん大丈夫です。」

それから時々、「セミリンガル」や「ダブルリミティッド」という言葉を目にするようになりました。

確かに、わたくしお母ちゃん、「セミリンガル」だったり「ダブルリミティッド」と思う節はいくらでもあります。11歳でイギリスに引っ越し、田舎の現地校にぽーんと入ってから1年は英語が全くできず、2年経っても上手く話せず、3年経っても数学以外の成績は芳しくなく、高校で中学の国語(英語)を平行して取り直し、6年後の17歳でようやく同級生と同じくらいになれたかもと思えるようになり、長い間、イギリス人の同級生と比べると十分でない英語でやり過ごしていました。

日本語はというと、補習校は遠いし高いし通わせないと親が判断し、通信教育もなし。家で家族と話すことと、辞書を引きながらおじいちゃんおばあちゃんや友達に手紙を書いてエアメールで送ることだけが日本語とのつながりでした。イギリスに暮らしていた6年間で日本に帰れたのは1度きり。18歳で日本に帰るまでは、漢字も語彙も小学生レベルのままで、その上、遠州弁を標準語だと思っていたので、それはもう「セミリンガル」と言われてもしょうがない。

18歳で日本に戻り、大学生をしながら日本語が上達するにつれて、今度は英語が少しづつ錆びてきます。バイトをして音声切換ができるビデオデッキを買い(時代は1990年代)、英語に切り替えられる番組を見たり、毎年格安航空券でイギリスに渡り友人宅に長期滞在したりと、英語を錆びさせないようにしていました。けれども、英語環境に入ると日本語が停滞し、日本語環境に入ると英語が停滞する、これが現実でした。時々「バイリンガル」と呼ばれると、そうでない現実を本人が一番よくわかっていたので、小恥ずかしく感じました。

今はネットを活用して、電子本や映画やビデオ電話など、場所に関係なく「繋がる」ので、言語のバランスがとりやすくなりました。それでも、子供の限られた時間の中では、おおよそ、ある言語と接した時間に比例して、その言語の力がついていきます。

実際に、子供たちがフランス語現地校に通っている今、フランス語の豊かな表現を家庭で伸ばしてあげられない無力さと、日本語家庭であっても思うように日本語が伸びないジレンマを痛感しています。きっと、子供たちはどこかで「セミリンガル」「ダブルリミティッド」と分類されてしまうこともあるでしょう。ただ、どの言語も、誰もがゼロからのスタートです。単に母国語意外の言語を身につけ始めるタイミングが早く濃厚であったと捉え、言語の下手さにまつわる多少の苦労を背負いながら、進むしかありません。

こういった環境で育った人の、ある時点における日本語力だけを見たら、ひとつの言語環境でじっくりと母国語を育める子供に比べると「セミリンガル」に感じてしまうかもしれません。けれども、忘れてはいけないのが、この子供達は両方の環境で生きていること。その全体像を見てみると、「セミリンガル」や「ダブルリミティッド」とは言い切れない何かが見えてくる気がします。大人の仕事や都合にあわせて、新しい環境に飛び込んでいく子供たち。日本語と外国語とを行き来しながら、一味違う経験を積んでいます。

昔話になりますが、20代の頃「セミリンガル」兼「ダブルリミティッド」であったお母ちゃんを雇ってくれた東京の日本企業や外資系企業は、日本語弱めでも「柔軟性。社交性。応用力。根性。根明。」なところに光を当てて採用してくれました。お母ちゃんの日本語が少々ポンコツでも、いろいろと教えてくれる親切な上司も同僚もいっぱいいました。チームで凸凹を補い合い、それぞれの特性をもって貢献していくと、きっとすごい力になる。そういう風に見てくれる環境さえあれば、総じて大丈夫だと思っています。

また、思考能力もよく心配されますが、思考力は勉学だけではなく、いろんな人と関わり関係を築き、仕事に励んでキャリアを積んだり、いろんな経験を重ねながら学ぶことで、大人になってもずっと育つものです。お母ちゃんも、40歳を過ぎてから縁もゆかりもない土地に暮らすことになり、まだまだ学ぶ毎日です。長い目で見なければ、何とも決めつけることはできません。

今子供達が通っているフランス語圏の現地校の先生方からも「フランス語家庭に比べると語彙が乏しくなりがちなので、いろんな面でフランス語に触れる最大の努力をしてください」と常にアドバイスをいただきます。それはその通りです。厳しい現実を認識しつつも、小さい頃からいろんな言語や文化に接して育つことはいい刺激であるとポジティブに捉える大人がこの地域には多く、助けられています。

弱みも強みも表裏一体。「セミリンガル」「ダブルリミティッド」に何か強みが隠れているかもしれません。人のため社会のために何かができる力かもしれません。ポジティブ感ゼロな「セミリンガル」「ダブルリミティッド」という言葉を子供に対して使うことは、できるだけ避けたいものです。

今でも日本語が怪しいお母ちゃんですが、セミリンガルだろうとダブルリミティッドだろうと、こうしてnoteを書けることは、おおらかに読んでいただける皆様のお陰です。心より感謝です。 


おまけの一枚:少し大きいですが、緑パプリカではなく、日本のピーマンのようなピーマンも手に入るので、醤油さえあれば、ピーマンの肉詰めもできちゃいます。

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