居間|10番地よりご挨拶
Text|フランスガム
はじめまして。この度モーヴ街10番地に入居させて頂くことになりました
フランスガムと申します。
こちらでは「小さなお話を売るお店」として場所を頂き、絵本のご紹介やそれにまつわる品々などをお届けする予定です。
このお話を頂いてから、モーヴ街の小さなお話を売るお店にはどんな店主がいるのだろう?と色々思いを巡らせている時に、ベランダにあるローズマリーの姿が浮かびました。なぜかといえば通常ローズマリーには菫色の花が咲くのです。(今年うちにあるものには咲かなかったのですが…)
それは昨年ふと貰った小さい苗でしたが、ぐんぐんと伸びる様子に思いがけず励まされたり、日々の料理に彩りを添えてくれたり、触れるととても良い香りがして癒されたり、いつの間にかその存在に愛おしさの類を覚えるようになりました。
うちには植物(特に花)にとっては猛獣のような猫二匹がいる為、植物を置くことはずっと諦めていたので、そんな風に気軽に運んできてくれるような行為は本当にありがたく、長年感じることのなかった新鮮な喜びを得ました。幸運にも猫たちはハーブの類に興味がないようで、齧られることなく無事に守られ育っています。
冬の間寒さで葉の色が変わり、冷たい雨も雪の日も乗り越えて、(今考えると室内に入れることを思いつけば良かったのですが…)春を迎えたローズマリーの存在がとても力強く健気で愛おしく、このお店の店主にそんな人物像を重ねました。
その人物は、いつも自分が描くような若い娘ではなく、青春をだいぶ過ぎた頃、人生のひとつの段階を終えた頃の女性であるだろうと思いました。
ローズマリーのようなマダム。ローズマリーの語源である「海の雫」のイメージも彼女にぴったりでした。
名前はローズマリーのフランス語訳、ロマランとしました。
そんなこんなで誕生したマダム・ロマランがある日モーヴ街へと辿り着き、小さなお店を開くまでのお話を書いてみようと思いました。
お話を作りながら、ある鬱屈した環境から一代決心をして旅立ち、偶然辿り着いたモーヴ街で新しい暮らしを始めるマダム・ロマランと、先日ずっと寄り添っていた苔を落とし、固まった根をほぐし新しい土の鉢へと植え替えたベランダのローズマリーの姿とが重なりました。
今は春、ローズマリーは新しい環境でのびのびと葉を伸ばしています。
今回のお話では、モーヴ街案内所で菫色の契約書にサインしたり、お向かいの霧とリボンさんの運営するポプリのお店「Du Vert au Violet」を訪ねたり、モーヴ街住人の方々もちらちらと登場します。
お話の中でマダム・ロマランが貰ったポプリの香りを実際にお楽しみ頂ける素敵なセットがありますので、マダム・ロマランを通して魅惑のモーヴ街を散策して頂けたらと思います。
ある重要な決意と偶然の流れの連なり。人生はそのように進んでいくように思います。
マダム・ロマランの新しい人生、マダム・ロマランの開いた小さなお店で起こる様々を、これから一緒に見守ってくださると嬉しいです。
2022年5月 フランスガム
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菫色に包まれたモーヴ街の様子を霧とリボンさんの作成された地図を頼りに描きました。
モーヴ街案内所の建物には時計がついていて春の時期には(霧とリボンさんの入り口のように)クレマチス・アーマンディが咲き乱れるだろうなとか、モーヴ・キャビネットには菫色の部屋の壁紙に似たテントがついていてるだろうなとか、モーヴ・アブサン・ブッククラブには二色のステンドグラスの光が差し込む部屋があって、、、などなど想像しながら描くのはとても楽しかったです。
霧とリボンさんがそれぞれのお店に寄せて作られたロゴマークが本当に素晴らしく良く出来ていて、ひとつひとつ感心しながら(難しくて描き起こせなかったものもありますが)それぞれの建物に描き入れました。
五月の風吹くモーヴ街の空気を感じて頂けたら嬉しいです。
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作家名|フランスガム
作品名|モーヴ街
アクリルガッシュ・シリウス紙
作品サイズ|21cm×29cm
制作年|2022年(新作)
非売品
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