お菓子を分けてくれない問題
教授は朴念仁である。
休日をふたりで過ごすようになった最初の頃。教授は山登りの前にスナック菓子を食べるのだが、そのお菓子を教授はひとりで食べてしまう。
奢ってくれる男友だちや、「これおいしいよー」と分けてくれる女友だちしか知らなかったわたしは大いに驚いた。
さて、そんな時の対処法である。
まずは「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」。
幼い子がおもちゃを取り上げるようにお菓子を奪う、もしくは「どうして分けてくれないの!」と口撃する方法。
わたしもいい大人なのでコレは却下。食べたければ同じお菓子を購入すればよいのだ。
次に「鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス」。
「こういう時は、分けてくれるとうれしいな」と正当なコミュニケーションを図る方法。
わたしも譲れない箇所は交渉したいところであるが、自分の思い通りに相手をコントロールしたいという欲求はない。
ここは年の功であろう、なるべく相手をそのまま受け入れたいと思っているのでコレも却下。
最後に「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」である。
わたしも子育てを終えたおばさん。見守ることを覚えた。コレを採用。
教授はこんな個性の持ち主なのね、とただただ受け入れるのみである。
そんな訳で、山登りのたびにひとりでお菓子を食べている教授を見守り続けて半年。
ある日教授が、はじめて隣にいるわたしに気がついたらしく「食べる?」と聞いてきた。
わお! 子どもがはじめて寝返りをうったときのような、はじめて立ったときのような感動を覚える。
「わあい! うれしい! ありがとう!」
思いっきりの笑顔でお礼を伝えた。
それ以来、教授は必ずわたしにもスナック菓子を分けてくれるようになった。
待つことの効果を実感した瞬間である。
なぜ教授と呼ぶの?
↓ ↓ ↓ ↓ ↓