つらい記憶のステキな消し方
わたしのパートナーは本の虫である。
何かに興味を持ったら図書館へ行き、その分野の棚の本すべてを読破する。
その後、広域で貸し出し可能な近隣の図書館と県立図書館へ行き、同じように棚を制覇する。
そんな好奇心旺盛のパートナーを、わたしはひそかに「教授」と読んでいる。
そんな教授が、50代も半ばにして大学生になった。
昔取り忘れた司書の免許を取るそうである。
教授が単位をほぼ取り終えた頃、レファレンスの練習をしたいと言いだした。
レファレンスサービスとは、図書館利用者が情報を求めた際に、図書館員が情報を提供してくれるサービスのことである。
そこで、わたしも昔懐かしい忘れものを取りに行くことにした。
40年以上前、メグという名前の女の子が主人公のSFを読んだ。わたしの名前がメグミだから親近感を持って読んだのだが、題名が全く思い出せない。また読んでみたい。
教授にレファレンスをお願いしたら、あっという間に題名が判明し、貸し出し可能な図書館まで見つけてきてくれた。さすが教授、ありがとう。
早速図書館へ行き、ワクワクしながら読んだのであるが、何だろう。胸が痛い。
借りてきた「五次元世界のぼうけん」は、2018年にアメリカで映画化されている。大人になっても充分楽しめる物語のはずだ。
主人公のメグは、眼鏡をかけ容姿もさえない女の子で、性格も怒りっぽくて、短気で、強情である。
幼いわたしは、このメグの見た目と性格と名前に、自分を重ねたのであろう。
よくある話だが、「あんたさえ生まれなければお母さんは幸せになれたのに」と言われて育った、自己肯定感0の幼いわたしが顔を出し、痛みを感じたようだ。
教授に正直に感想を伝えたところ、翌日謎解きイベントへ連れて行ってくれた。
ウーバーイーツならぬモグラのモーラーイーツの新入社員となり、街の動物たちに食事を配達しながら、伝説の配達員である父を探すというストーリーの謎解きである。
実は、「五次元世界のぼうけん」も行方不明の父を探すストーリーなのである。
社員証と銘打った地下鉄一日乗り放題の切符を片手に、謎を解いて次に向かう駅を解読する。
決して柔らかいとは言えない50代ふたりの脳みそで、あーでもないこーでもないとあちらこちらで謎解きをしているうちに、痛みの記憶は消え、教授との楽しいデートの時間が上書きされた。
つらい記憶は、いつでも好きな人との幸せな記憶で上書きできると学んだ瞬間である。
ところで、デート中教授に質問してみた。もう一度読みたいが、題名がわからない本はないのかと。答えは「ない」。何故なら「見つけちゃう」から。
くうーっ。カッコいい。職場でもあらゆる人から調べものを頼まれる教授らしい答えであった。
朴念仁の教授はクリスマスもラーメン
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