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[西洋の古い物語]『パレルモのウィリアム』(第5回)

明けましておめでとうございます。
本年もご一緒に物語をお読みくださいましたら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
※晴天に恵まれたお正月。ご近所を歩いてみると、家々の垣根のサザンカも日なたぼっこを楽しんでいるようです。画像はフォトギャラリーからお借りしました。ありがとうございました。

『パレルモのウィリアム』(第5回)

  どれほど間一髪の脱出であったかも知らずに、二人の逃亡者は日が昇るまで進み続け、日が昇ると山腹の洞窟の中に身を隠しました。食べる物は何もありませんでしたが、そんなことを考えることもできないほど疲れていましたので、ぐっすりと眠ってしまいました。しかし、目覚めると、彼らはどうやって食べ物を手に入れたものかと考え始めました。

「あら、大丈夫よ!」とメリオールは言いました。「ブラックベリーがたくさんあるし、どんぐりやヘーゼルナッツもあるわ。それに洞窟のすぐ下に小川もあるわ。水の音が聞こえるでしょ。宮殿のどんなものよりもずっと美味しくてよ。」
 
 しかし、ウィリアムは賛成しかねる様子で、ナッツやどんぐりよりもましな食べ物を渡してくれる人を誰か探したいと思いました。しかし、メリオールは耳を貸そうとしませんでした。きっと後を付けられ、裏切られるわ、と彼女は言いました。そこで、彼女を喜ばせようと、ウィリアムは果物を食べ、洞窟の中にとどまりましたが、翌日のことを考えると心中不安でした。
 
 幸運なことに、あまり長く待つことなく彼らは美味しい食事にありつくことができました。友達の例の狼が彼らのことを遠くから見ていて、助けに来る準備を整えていたのです。その日一日、狼は街道脇の藪の茂みの下に身を隠していましたが、やがて一人の男が肩にパンパンに膨らんだずだ袋を担いで近づいてくるのが見えました。狼は、荒々しい唸り声を上げながら隠れ場所から飛び出しました。その男はあまりに驚いたものですからずだ袋をとり落とし、森の中へと駆け込んでいきました。そこで狼はずだ袋を拾い上げました。それにはパンが一斤と調理済みの肉がいくらか入っておりました。狼はずだ袋を持ってウィリアムのもとへと駆け去りました。
 
 食事を終えると彼らはすっかり力を回復し元気になり、旅を続ける準備ができました。夜でしたし、人里離れた地帯でしたので、彼らは二本足で歩きました。しかし、朝が来ると、また、人が近くにいる気配があるときは、急いで四つん這いになりました。そして道中ずっと狼が彼らと一緒におり、彼らの食べ物が無くならないように気を付けておりました。
 
 その頃、宮殿では、ギリシャの王子へのメリオールの結婚の準備が賑やかに進められておりました。誰も花嫁のことは念頭にありませんでした。遂に、すべての準備ができあがりますと、皇帝は式部長官に王女を連れてくるよう命じました。
 
「王女様はご自分のお部屋にいらっしゃいません、陛下」と、式部長官は広間に戻ってくると言いました。しかし、皇帝はただ、娘が気後れしているだけだと考え、自分自身が行って彼女を連れてこよう、と答えました。
 
 王女のところへ行ってみると、式部長官と同じく、表の間には誰もいないことがわかったので、皇帝は奥の間のドアへと進みました。そのドアには鍵がかかっていました。彼はドアを揺すぶったり叩いたり怒って声を荒げたりしました。離れた小塔にいたアレクサンドリンにも彼の声が聞こえました。彼女は恐ろしかったのですが、何事かと急いでやってきました。

「娘は、娘はどこにいるのだ?」と、激しい怒りに口ごもりながら彼は叫びました。
「眠っておいでです、陛下」とアレクサンドリンは答えました。
「まだ眠っているだと!」と皇帝は言いました。「ならば即刻起こしてまいれ。花婿殿は準備ができているのだ。花婿殿のところへあれを連れていこうと私は待っているのだぞ。」 
「ああ、陛下!ギリシャでは王室の花嫁たちは塔の中に閉じ込められて生涯を過ごすのだとメリオールは聞いたのです。そして彼女は、自分は決してそのような一族には嫁がない、と誓ったのです。でも、実のところ、それは彼女の本当の理由ではないと私は思いますの。彼女は別な方に誓いを立てているのですわ。その方は陛下もご存じで愛しておられる方です。」
「それは誰なのだ」と皇帝は尋ねました。
「闘いであなたのお命をお救いした方、ウィリアム様でございます」とアレクサンドリンは恐れずに答えました。でも、彼女の足は恐怖でがたがた震えていたのです。 

 これを聞いて皇帝は悲嘆と激怒で半ば我を忘れそうになりました。
「娘はどこにいるのだ」と彼は叫びました。「言え、さもなければお前を塔に閉じ込めるぞ。」
「ウィリアム様はどこにいるのでしょう」とアレクサンドリンは尋ねました。「メリオール様がここにいないのでしたらウィリアム様もここにはおりますまい。となれば、きっと二人は一緒に行ってしまったのですわ。」
皇帝は一瞬彼女を黙って見つめました。
「ギリシャ人はこれを侮辱として私に戦を仕掛けてくるだろう」と彼は言いました。「ウィリアムについては、直ちに兵士の一団に探索に行かせよう。見つかった暁には、あやつの首を切らせて城門に架けさせるのだ。反逆者への見せしめとしてな。」
 
 しかし、兵士たちはウィリアムを見つけることができませんでした。おそらく彼らはあまり注意深く探さなかったのではないでしょうか。といいますのも、他の誰もと同じく、彼らもウィリアムを愛していたからです。皇帝によって次々と部隊が派遣されましたが、逃亡者たちの痕跡を見つけることなく皆戻ってきました。そうしているうちにとうとう、二頭の白い熊が庭園を駆け抜けていくのを見たあのギリシャ人が式部長官のところへやってきて、その話をしたのです。
「すぐに厨房に人をやって、熊の毛皮が紛失していないか問いただすのだ」と式部長官は命じました。そして、二頭の白い熊の毛皮が見つからない、という知らせをもって侍童が戻ってきました。

『パレルモのウィリアム』(第5回)はここまでです。
ウィリアムとメリオールは無事に逃げおおせるのでしょうか。
最後までお読みくださりありがとうございました。
次回をどうぞお楽しみに!

この物語は以下に収録されています。


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百合子
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