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[西洋の古い物語]「アラクネー」

こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
今回は、愚かにも女神に挑戦したために蜘蛛に変えられた美しい乙女のお話です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

※ 画像はルネ・アントワーヌ・ウアス(1645-1710)作「ミネルヴァとアラクネー」(1706年、ヴェルサイユ宮殿所蔵)です。アテナ女神はローマ神話ではミネルヴァというそうです。女神が右手に握っているのは糸巻きの心棒のようです。アラクネーの足元に色とりどりの糸が入った籠が見えます。

「アラクネー」

昔、リディアに一人の乙女がおりました。名前はアラクネーといいまして、機織りの腕前で国中に名が知れ渡っておりました。

彼女の指は、オデュッセウスを魔法の島に7年間引き留めたあのニンフのカリプソのように素早く動きました。また、疲れを知らないことでは、夫の帰還を待ちながら来る日も来る日も織り続けたあの英雄の妻ペネロペにも劣らぬほどでした。

夜明けから日暮までアラクネーも織り続けました。海からはネレイドたち、森からはドライアドたちといったニンフたちがやってきては、彼女の織り機のところに集まるのが常でした。

「乙女よ」とニンフたちは木々の葉や泡を髪から振り落としながら、驚嘆して言うのでした。「パラス-アテナ女神様がお前に手ほどきなさったに違いない!」

でも、そんなことを言われてもアラクネーは不満でした。たとえ女神が全ての家事向きの手仕事をお守り下さり、そのお恵みがあってこそ人はそうした手技を身に付けられるのだとしても、アラクネーは自分が女神のおかげを受けたことを認めようとしませんでした。

「アテナ女神様から教わったのではありませんわ」と彼女は言いました。
「もし女神様が私より上手に織ることがおできになるのなら、お出まし願って決着をつけていただきましょう。」

これを聞くとニンフたちは身を震わせました。
すると、様子をじっと見ていた一人の年老いた婦人がアラクネーの方を向いて言いました。
「もっと言葉に気をおつけ、お嬢さん。お許しを乞えば女神様は大目に見てくださるかもしれぬ。だが、不死の存在と名誉を競わぬがよい。」

アラクネーは糸を切り、織機の杼(ひ:縦糸の間を往復して横糸を通すもの)は唸り声をたてるのをやめました。
「忠告はお控えなさいませ」と彼女は言いました。「私はアテナ女神様など恐れません。いいえ、他のどなただって畏れませんわ。」

彼女は老婦人に向かってしかめっ面をしました。すると驚いたことに、婦人は丈高く、堂々たるお姿の美しいお方に突然変わったのです。それは灰色の瞳、黄金の髪、黄金の兜をかぶった乙女でした。アテナ女神その方だったのです。

居合わせた者たちは恐怖と畏敬の念で縮み上がりました。アラクネーだけが畏れもせずに愚かな自惚れを持ち続けていました。

静まりかえった中、両者は織り始めました。二つの織物の上で喜びの唸り声を立てながら蜜蜂のように行ったり来たりする杼の音に導かれて、ニンフたちはそっと近くに寄りました。

女神は立ったまま仕事に勤しみ、ニンフたちは女神の織り機をじっと見つめました。ニンフたちが見ておりますと、日暮れ時の雲が見る間にいろいろな生き物の姿になるように、素晴らしい色合いの形や像が次々と現われるのでした。そして、まだ慈悲深くおわす女神は、アラクネーへの警告として、無謀な神々や人間たちへのご自身の勝利を描いた図柄を紡ぎ出しておりました。

女神は、織物の四隅の一つに、自らが海神ポセイドンを征服した物語を描き出しました。と言いますのも、アテネの初代の王は、最も有益な贈り物をくれた神にアテネの町を献じると約束したからでした。

ポセイドンは馬を与えました。しかし、アテナは生計の手段であり、平和と繁栄の象徴であるオリーブを贈りました。それでこの町は彼女の名前にちなんでアテネと名付けられたのです。

また、アテナは、ある女神と美の栄誉を争ったことで鶴に変えられた虚栄心の強いトロイの女性を描きました。織物の他の隅にも同様の絵柄が配され、全体が虹のように輝いていました。

その間、頭が自惚れで一杯になっていたアラクネーは、神々にたてつく物語の縫い取りを自分の織物に施し、ゼウスやアポロンを軽んじ、神々を鳥や獣の姿で描きました。

彼女は素晴らしい腕前で織りました。生き物たちは呼吸し、話すかのように見えましたが、それは雨の前に草の上に見つけることができる蜘蛛の糸と同じぐらい繊細なのでした。

これにはアテナ女神ご自身も驚かれました。娘の不遜さに対する怒りすら、驚嘆の念を完全には抑えることはできませんでした。瞬時、女神は陶然として立ち尽くしました。それから女神はその織物を端から端まで破り、糸巻きのつむ(心棒)で三度アラクネーの額に触れました。

「生き続けよ、アラクネー」と女神は言いました。「そして、織ることがそなたの誉れなのだから、そなたとそなたの子孫は永遠に織らねばならぬ。」
そう言いながら、女神はある魔法の液体を乙女に振りかけました。

アラクネーの美しさは消え去り、彼女の人間の姿は蜘蛛の姿へと縮んで、そのままになりました。

蜘蛛となった彼女は一生涯を織りながら過ごしました。
皆様も彼女の手仕事に似たものを、いつでも垂木の間にご覧になることができるでしょう。

「アラクネー」のお話はこれでお終いです。

このお話はギリシャ神話に出てきますね。
アラクネーは自分の機織りの技能を誇り、不遜にも女神に挑戦しました。彼女が作った織物は女神でさえ驚嘆するほどの出来映えでしたが、その瞬間罰せられて蜘蛛の姿に変えられてしまいました。

きっとアラクネーはとても努力したのでしょうね。女神のお恵みではなく自分の力でここまでの腕前を身につけたのだ、と言いたい気持ちもわからないではありません。

でも、このお話を読むと、いろいろな分野のスーパースターの方々がインタビューなどで必ずと言ってよいほど、ここまで自分を応援し、支えてくれたコーチやチームの仲間やご家族への感謝を口になさるのを思い出します。

努力が実を結び、成果を上げることができるのも、まわりの助けがあってこそなのですね。どんな時もそばにいて支えてくれる、そんな大切な人々への感謝の思いを、古代の人々は「女神のお恵み」という言葉で表現したのでしょうか。

このお話の原文は以下の物語集に収録されています。

今回もお読み下さり、ありがとうございました。
次回をどうぞお楽しみに。

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