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[西洋の古い物語]『ニャールのサガ』より「ハルゲルヅの夫の殺害」(第3回)

こんにちは。いつもお読みくださりありがとうございます。
「ハルゲルヅの夫の殺害」(第3回)です。
グルームは、夫を殺された美しいハルゲルヅとの結婚を強く望み、兄ソーラリンを伴ってハルゲルヅの父の館へやってきます。果たして縁談はうまくまとまるのでしょうか。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

※画像は、撮影者様が「おなかいっぱい」とタイトルをおつけになっているように、満足そうなお顔のメジロさんですね。お日様の光で背中がポカポカ暖かそうです。フォトギャラリーからお借りしました。ありがとうございます。

『ニャールのサガ』より「ハルゲルヅの夫の殺害」(第3回)

 話しているうちにホスクルド、フルートの兄弟は館に着きました。グルームやソーラリンら客人たちが出てきて用件を明かし、娘のハルゲルヅを弟グルームに与えてくれるようホスクルドに頼みました。
「知っての通り」と彼は言葉を継ぎました。「グルームは金持ちで強健で、男たち全員からよく思われています。」
「ええ、それは承知しています」とホスクルドは答えました。「しかし、以前一度娘に夫を選んだときには、我々皆にとって悪い方向に事が運んだもので。」
「それは障害にはなりません」とソーラリンは答えました。「一人の男の運命が全ての男の運命ではないのですから。それに、物事はもっと良い方向に行きますよ、ショーストールヴがちょっかいを出さなければね。」
 
「おっしゃる通りです」と、黙って彼らの話を聴いていたフルートが言いました。
「結婚はもっとうまくいくでしょう、もし私が申し上げることをあなたがなさるならばね。ショーストールヴが彼女と一緒にグルームの家に行くのを許さないようになさることです。それに、グルームの許可なしには連続して三晩以上家に泊まらさないこと。それに違反すれば、法の保護を剥奪され、グルーム自身によって死を与えられるという罰則を条件につけておくことです。グルームが私の忠告に耳を傾けてくれるなら、滞在の許可を決して与えはしないでしょう。だが、そろそろハルゲルヅにこのことを知らせてやる頃合いですね。彼女はグルームが自分の意に適うかどうかを申し上げることでしょう。」
ソーラリンは同意し、ホスクルドは娘を呼びにやりました。
 
 さて、これらの男たちが父の館にやってきた用件についてハルゲルヅには何も話されてはおりませんでしたが、おそらく彼女は何かを察したのでしょう。といいますのも、姿を現した彼女は二人の侍女に付き添われ、晴れ着を着ておりましたので。彼女は深紅のドレスをまとい、銀のベルトを締め、くすんだ紺青色のマントを羽織っておりました。また、豊かな黄色い髪は結われずに彼女の膝のあたりまで垂下がっていました。彼女は微笑み、訪問者たちに丁重に話しかけました。そして父と叔父の間に腰掛けました。

グルームは言いました。
「あなたの父上と私の兄ソーラリンは、あなたと私の結婚について話し合っていたのですよ、ハルゲルヅ。この結婚が二人の意に適うように、あなたの意にも適いますか。胸のうちをすっかり言ってください。というのも、もしあなたが私のことをお気に召さないなら、直ちに帰るつもりですから。」
「この縁組みは気に入りましたわ」とハルゲルヅは答えました。「以前父が私にあてがった縁組みよりもずっと私の社会的地位に合っていますわ。それに、あなたも私の好みですわ、もし私たちの気性が合わないということがなければね。」
 
どのような結婚の条件が取決められたか、また、グルームはハルゲルヅの財産と等しい価値の財産もしくは金銭を持ってくるべきこと、そして彼ら両人がその全体を分有するべきことを、彼らはハルゲルヅに告げました。そこでフルートは、「ハルゲルヅを婚約させましょう」と言いました。
 
 この後、婚約式が行われ、グルームは帰っていきました。彼は結婚式までは一度もやってきませんでした。
 
 結婚式の日、ホスクルドの館の広間にはハルゲルヅの結婚を見届けようと大勢の人々が参集しておりました。饗宴が始まりました。ショーストールヴが斧を高く掲げながら歩き回っているのが見られたことでしょうが、客人たちは彼がそこにいるのに気付かぬふりをしておりましたので、何事も起りませんでした。
 
 暫くの間、グルームとその妻は幸せに暮らしました。しかし、ハルゲルヅはやはり以前の通り貪欲且つ浪費家であることがわかりました。年末には娘が産まれ、その子を彼女はソルゲルヅと名付けました。子供は成長し、母と同じぐらい美しくなりました。しかし、やがてショーストールヴが厄介事を引き起しました。ホスクルドの召使の一人を殴りつけたことで、彼はホスクルドから追い出されたのでした。ショーストールヴは胸の中で復讐を誓い、馬を南に進めてグルームの館へとやってきました。
 
 彼の姿にハルゲルヅは喜びましたが、話を聞くと、グルームの同意なしに彼をかくまうことはできない、と言いました。そこで、夫が入ってくると、彼女は素早く駆け寄って迎え入れ、両腕を彼の首に回して、自分の切なる願いに彼が同意してくれるかどうかを尋ねました。
「それが何であれ名誉に適うことなら」とグルームは答えました。「必ずするよ。」

 そこで彼女は、父がショーストールヴを追放した次第やショーストールヴが避難場所を求めて彼女のところへやってきたこと、そして、もしグルームが同意してくれるなら自分は彼にいてほしいと望んでいることを告げました。グルームは、彼女が強く望むのなら、ショーストールヴはここにいるとよい、但し、彼が悪さをしなければだが、と答えました。
 
 暫くの間はショーストールヴは用心しており、グルームが特に咎め立てするようなこともありませんでした。しかし、その後彼はソルヴァルドの時のように全てを台無しにし始め、ハルゲルヅ以外の者の言うことを聞こうとしなくなりました。ソーラリンはグルームに警告し、終いにはたいへんなことになるぞ、と言いましたが、グルームはただ微笑むばかりで、ハルゲルヅの好きにさせておくのでした。(続く)

「ハルゲルヅの夫の殺害」(第3回)はここまでです。
グルームとハルゲルヅの幸せな結婚生活に、ショーストールヴの存在が不吉な影を落としています。
続きをどうぞお楽しみに!

この物語の原文は以下に収録されています。


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百合子
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