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[西洋の古い物語]『パレルモのウィリアム』(第2回)
こんにちは。いつもお読みくださりありがとうございます。『パレルモのウィリアム』第2回です。ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。
※画像は、お話とは関係ないのですが、何かを一心に待っているような三毛猫さんに心惹かれて、フォトギャラリーからお借りしました。ありがとうございます。
『パレルモのウィリアム』(第2回)
さて、この森には年老いた牛飼いが住んでおりました。牛飼いはその朝たまたま、ウィリアムが狼と暮らしている寝穴からさほど遠くない所で仕事がありました。彼は大きな犬を連れて行きました。その犬は彼を助けて、迷い出た牛たちを呼び集めたり、牛たちを襲う恐れのある不気味な獣どもを遠ざけておいたりするのでした。この日の朝は牛がいないので、犬は好きなように行ったり来たり走り回り、大いに楽しんでおりましたが、突然、まるで獲物を見つけたかのように大きな声で吠え始めました。その声に老人は足を速めました。
鳴き声が聞こえてくる場所に老人が到着しますと、犬は穴の縁に立っており、穴の中からびっくりしたような叫び声が聞こえてきました。老人が覗いてみると、そこには黄金のように光輝く衣服をまとった子供が一番奥まった隅で怖そうに身を縮めているのが見えました。
「何も怖がらなくていいんだよ、坊や」と牛飼いは言いました。「この犬はお前さんを傷つけたりは決してしないから。もし犬がそうしたくても、儂が許しはしないからね。」
そう言いながら彼は手を差し出しました。そこでウィリアムは勇気を奮い起こしました。彼は本当は臆病者ではなかったのですが、独りぼっちで心細い気分でしたし、狼が行ってしまってから随分たったような気もしていました。果たして狼は本当に帰ってくるのかしら。このおじいさんは親切そうだし、話しかける分には危ないこともないだろう。そう思い、彼は差し出された手をとり、穴から這い出しました。牛飼いは彼のために林檎や、その他、狼には届かない高い木の上になっている果物を集めました。そして一日中、彼らはどんどん歩き、漸く牛飼いの小屋にやって来ました。その前には一人の年老いた女の人が立っておりました。
「お前さんに小さい男の子を連れてきたのだよ」と彼は言いました。「この子は儂が森で見つけたのだ。」
「ああ、あなたが今朝起きたとき、幸運の星が輝いていたのですわ」と彼女は答えました。「で、お名前はなんというの、私の坊や。ここにいて私と一緒に暮らしておくれかい。」
「僕はウィリアムといいます。あなたは僕のお祖母様のように優しそうですから、あなたと一緒にいましょう」と少年は言いました。年老いた二人はとても喜び、牛乳を搾って温め、彼の夕食に与えました。
狼が戻ってきました。実は彼は狼などではなく、スペイン王のご子息でしたが、継母に魔法をかけられていたのです。穴が空っぽなのを見ると彼はとても悲しみました。実は、真っ先に彼が考えたことは、ライオンが少年をさらって食べてしまった、もしくは鷲が空から少年に飛びかかり、雛たちの食餌にと運び去ってしまった、というものでした。しかし、もう泣けなくなるまで泣いた後で、ふと、少年を死んだものとして諦める前に探してみるほうがよい、もしかしたら彼の行方を示す手掛かりが何かあるかもしれない、という考えが浮かびました。そこで彼は尾で涙を拭うと、元気よく跳び上がりました。
彼が最初にしたのは、周りの茂みが、何か大きな獣が通って押し潰したように、へし折られたり引き裂かれたりしていないかを確認することでした。しかし、茂みは全て、朝彼が出かけたときのままでしたし、草の蔓は朝のまま、木から木へとからまっておりました。ライオンがこの場所に近づかなかったことは明らかでした。そこで彼は鳥の羽毛や子供の衣服の切れ端が落ちていないかと、注意深く地面をつぶさに調べました。そのどちらも見つかりませんでしたが、人間の足跡がくっきりとありましたので、彼はそれをたどっていきました。
足跡は2マイルほどにわたって曲がりくねり、壁に蔓薔薇がはう小さな小屋の前で止まりました。狼は姿を見せたくありませんでしたので、足音を立てずに裏手に回りますと、ドアには猫が出入りするのに十分なほどの大きさの穴があいておりました。狼はこの穴から覗き、ウィリアムが夕食を食べながら、あの老婦人とまるで彼女のことをこれまでずっと知っていたかのようお喋りをしているのを見ました。彼は人なつっこい少年で、嬉しい時にはまるでゴロゴロ喉を鳴らす猫のように満足そうにするのです。狼は子供が大丈夫なのを見て喜び、帰っていきました。
「ウィリアムは私といるよりも彼らといる方が安全だろう」と彼は独りごちました。
何年も経ち、ウィリアムは大きく成長しました。彼はとてもよく牛飼いとその妻の役に立ちました。今では、最初に手ほどきしてくれた先生を満足させるであろうほどの手並みで弓矢で射ることができましたし、遊び仲間――炭焼きや木こりの息子たち――と一緒に、森で見つけた獲物で家の食料を切らさぬようにしておくのもいつもの習慣となりました。その他にも、彼は川から汲んだ水で桶を満たし、炉にくべるために薪を割り、時には食事の料理も任されました。そして、さても立派な少年であったウィリアムにこんなことが起ったのです。
ある日のこと、皇帝はこの森で大がかりな狩りを催そうと計画なさいました。野猪を追いかけているうちに、皇帝は廷臣たちからはぐれ、道に迷ってしまわれたのです。あの道、この道とたどっておりますと、彼は果物を集めている少年に出会いました。少年があまりに美しかったので、これはきっと妖精の種族に違いない、と皇帝は思いました。
「名は何と申す、少年よ」と皇帝は訪ねました。「どこに住んでおるのか。」
少年は彼の声に振り向き、帽子を取って低くお辞儀をしました。
「私はウィリアムと呼ばれております、お殿様」と彼は答えました。「私は父である牛飼いと近くの小屋で暮らしております。他の血縁者のことは一人も聞いたことがございません。」
なにしろ、パレルモの庭園や宮殿での生活は今やこの子の記憶から夢の中へとかすんで消えてしまっていたのですから。
「そなたの父御にここへ参って話すよう命ぜよ」と皇帝は言いました。しかしウィリアムは動きませんでした。
「私のせいで父に危害がふりかかるのではと心配です」と彼は答えました。「そのようなことが決してあってはなりません。」
しかし皇帝はこれを聞くと微笑みました。
「危害ではなく、褒美をとらせよう」と彼は言いました。そこでウィリアムは勇気を出し、小屋へと道を急ぎました。
「私は皇帝である。」
少年が牛飼いと一緒に戻ってきますと、その見知らぬ人は言いました。「偽りなく告げよ、これはそなたの息子であるか。」
すると牛飼いは、体中ぶるぶる震えながら、全てを話しました。彼が話し終えますと、皇帝は静かに言いました。
「よくやった。だが、今日からこの少年は私のものとする。この子は我が娘とともに成長するのだ。」
自分も妻もウィリアムがいなくなったらどれほど悲しいだろうと考えますと牛飼いの心は沈みました。しかし彼は沈黙したままでした。ウィリアムはそうではありませんでした。彼はわっとばかりに泣きだし、嘆きました。
「この善良な人とおかみさんが私を引取り、養育してくださらなかったら、私はひどいことになっていたことでしょう。私は自分がどこから来たのかも、どこへ行けばよいのかもわかりません!お二人ほど親切な方は誰もいないでしょう。」
「泣くのをやめよ、美しい少年よ」と皇帝は言いました。
「そなたは、彼らがしてくれた親切に、いつか報いることができることだろう。」
そして牛飼いは彼に、宮廷でどう振舞うべきかについての賢明な助言を与えました。
「無駄話をする者とならず、言葉数を少なくしなさい。ご主人に忠実に、また、あらゆる人々に礼儀正しく話しなさい。できるだけ貧しい人々を助けるようにしなさい。」
「彼を私の馬に乗せるのだ」と皇帝は言いました。ウィリアムはずっとすすり泣きながら、牛飼いに別れを告げ、彼の妻と遊び仲間であるユゴン、アベロ、アカリンへの悲しい挨拶をことづけました。しかし、彼はこのように堂々たる様子で馬に乗っていることが嬉しくなり、涙はすぐに乾いたのでした。
『パレルモのウィリアム』(第2回)はここまでです。
最後までお読みくださりありがとうございました。
親切な牛飼いの老夫婦のもとを離れ、突然、宮廷で暮らすこととなったウィリアムに、これからどんなことが起るのでしょうか。
次回をどうぞお楽しみに!
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