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[西洋の古い物語]『楽しきイングランドの聖ジョージ』(第5回)


こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
聖ジョージのお話の5回目、愛しいサブラ王女に一目会おうと、聖ジョージはモロッコの首都トリポリへと向かいます。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

※ 画像はエドワード・バーン=ジョーンズ作「竜へと連れて行かれるサブラ王女」(1866年)です。パブリックドメインからお借りしました。王女の名前は、原作では「サブラ」ですが、今回ご紹介しています縮約版では「サビア」となっています。

 
「楽しきイングランドの聖ジョージ」(第5回)
 
この後、楽しきイングランドの聖ジョージは、途中で多くの冒険に出会いながら、遠くへと速やかに旅を進め、愛するサビア王女を残してきたエジプトを目指しました。しかし、なんと悲しく、恐ろしいことか、最初にエジプトに上陸した時に出会ったあの同じ隠者から、サビアの父プトレマイオス王は彼女が拒否するにもかかわらず、肌の色の黒いモロッコ王アルミドールが大勢の妻の一人として彼女を連れ帰ることに同意したことを教えられたのです。
 
彼はモロッコの首都トリポリへと行き先を転じました。あんなにも残酷に引き離されてしまった愛しい王女に、あらゆる犠牲を払っても一目会いたいと心に決めていたからでした。この目的のため、彼は隠者の着古した外衣を借り、物乞いに姿をやつして、後宮の門に入る許しを得ました。そこには、貧しい者、身体が弱い者、老い衰えた者など多くの物乞いたちが集まり、跪いておりました。
 
何故跪いているのですか、と聖ジョージが尋ねると、彼らは答えました。
「私たちがイングランドの聖ジョージ様のご無事をお祈りできますよう、善良なるサビア王妃様が私たちにお恵みを下さるのですよ。王妃様はその方に御心を捧げておられるのです。」
 
これを聞くと、聖ジョージの胸は喜びで割れんばかりに高鳴りました。そして、かつてと変わらず愛らしいけれども、顔色は青く悲しげで、長い苦しみにやつれたサビア王女が深い悲しみに包まれて姿を現しますと、彼はもうとても跪いてはいられない思いでした。
 
無言のまま彼女は、物乞い一人一人に順に施しを手渡していきます。が、聖ジョージのところへやって来たとき、彼女ははっとして胸に手を置きました。そしてそっと言いました。
「お立ち下さい!あなたは私を死から救って下さったあのお方に本当にそっくりでいらっしゃいます。何故なら、私の前に跪かれることはあなたにふさわしいことだからですわ!」
 
そこで、聖ジョージは立ち上がり、低くお辞儀をしますと、静かに言いました。
「比類なき貴婦人よ!ご覧下さい!私こそ、あなた様がもったいなくもこれをお与えくださいました当の騎士でございます。」
こう言いながら、彼は、彼女が彼に与えたあのダイヤモンドの指輪を彼女の指にそっとはめました。しかし、彼女はそれを見てはいませんでした。彼女は彼を見つめていたのです。その目には愛が宿っておりました。
 
それから彼は、彼女の父親の卑怯な裏切りとそれにアルミドールが加担していたことを彼女に話しました。彼女は激しく怒り、叫びました。
「これ以上お喋りで時間を無駄にしてはなりませぬ。私はもうこの忌まわしい場所にはとどまりません。アルミドールが狩から戻る前に私たちは逃げてしまいましょう。」
 
そして、彼女は聖ジョージを武器収納庫に案内しました。彼はそこで頼りになる愛剣アスカロンを見つけました。続いて彼女は彼を厩舎に連れて行きました。厩舎では、俊足の愛馬べヤードが馬具を装備され、準備万端で立っておりました。
 
勇敢な騎士が馬に跨ると、サブラは足を彼の足にかけ、彼の後ろに小鳥のように跳び乗りました。聖ジョージは誇り高い馬に軽く拍車を当てました。するとまるで弓から放たれた矢のようにべヤードは二人を運び、町や野原を越え、林や森を抜け、川を渡り、山々や谷間を横切って進みました。そしてついに彼らはギリシャの地に辿りつきました。
 
その地では、王の婚礼を祝って国中が祝祭の最中でした。祝賀のいろいろなお楽しみの一つに馬上槍試合大会がありましたが、その開催の知らせは世界中に広まっておりました。この大会に出るため、他の6人のキリスト教国の勇士たちは全員既に来ておりましたので、聖ジョージが到着して7番目となりました。
 
ほとんどの勇士は、自分が救った美しい貴婦人たちを伴っていました。フランスの聖デニスは美しいエグランティーヌを連れてきていましたし、スペインの聖ジェームズは愛らしいセレスタインを、一方、高貴なるロザリンドはイタリアの聖アンソニーに付き添っておりました。ウェールズの聖デイビッドは、7年間の眠りのあとでしたので、冒険を求める熱い欲求で一杯でした。誰よりも礼節厚いアイルランドの聖パトリックは、白鳥の姿になっていた6人の王女たち全員を伴っていました。彼女たちは自分たちを白鳥の姿から解放してくれたスコットランドの聖アンドルーに感謝し、彼を探し続けていたのでした。と言いますのも、聖アンドルーはあらゆる俗世のことから離れ、信仰のために戦うことを決めておりましたので。
 
というわけで、勇敢な騎士たちと美しい貴婦人方は楽しい馬上槍試合で合流し、7人の勇士たちは順に7日間の各試合日の筆頭挑戦者になりました。
 
ところが、お楽しみの真最中に、異教世界の百の様々な地域からの百人の使者が姿を現し、全キリスト教徒に対して決戦を宣言したのです。
 
そこで、7人の勇士は、各々祖国に帰還して各自の最愛の貴婦人を安全な場所に置き、そして軍勢を召集して6ヶ月後に集結し、一つの軍団として合流してキリスト教世界のために進軍することで合意しました。
 
このことがなされると、皆は聖ジョージを総司令官に選出し、雄叫びをあげながらトリポリへと進軍していきました。
「キリスト教世界のために我らは戦い、そして死ぬのだ!」 (続く)
 
 
「楽しきイングランドの聖ジョージ」第5回はこれでお終いです。

このお話の原文は以下の物語集に収録されています。

今回もお読み下さり、ありがとうございました。
次回、『楽しきイングランドの聖ジョージ』の最終回となります。どうぞお楽しみに。

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