[西洋の古い物語]「告げ口する彫像」
こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
今回は、法律に違反した者を告げ口する魔法の彫像のお話です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。
※ 画像は長岡天神の霧島ツツジです。燃え立つような赤が青空に映えています!ちょうどこの日、NHKの取材があったと後から聞きました。
「告げ口する彫像」
昔、一人の偉大な皇帝がいらっしゃいました。皇帝はご長男の誕生日に働いた者は何人によらず死刑に処す、という法律をお作りになりました。
この法律を国中に広く知らしめさせ、お抱えの首席魔術師を呼びにやりますと、皇帝は彼にこうおっしゃいました。
「新しい法律に違犯して労働した者の名前を朕に教える仕掛けを作ってもらいたいのだ。」
「陛下」と魔術師は答えました。「お望みの通りにいたしましょう。」
直ちに魔術師は驚くべき、物言う彫像を作り上げ、それを首都の公共の広場に置きました。
この彫像は魔法の力によって、国内で一番年長の王子の誕生日に労働した者全員を見分けます。そして、その日に秘かに働いた各人の名前を告げることができたのです。
このようなことが数年にわたって続き、大勢が死罪となりました。
さて、首都にフォークスという名の大工がおりました。彼は勤勉な職人で、早朝から夜更けまで仕事に勤しんでおりました。
ある年のこと、王子の誕生日がめぐってきましたが、彼は一日中働き続けました。翌朝、彼は起床し、服を着ると、まだ通りに誰も起き出してくる前に、魔法の彫像のところへ行ってこう言いました。
「こら、彫像よ!よくもこの町の市民たちを大勢糾弾し、死刑にしてきたな。だから、誓って言うが、もし俺を告発したらお前の頭をかち割ってやるからな!」
それからほどなくして皇帝は使者を彫像のところへ派遣し、その前日に法律が破られたかどうかを尋ねさせました。
彫像は使者たちを見ると叫びました。
「皆さん、見て下さい!私の額に何と書いてありますか。」
彼らが見上げると、額には次のような三つの文章が書かれてありました。
「時代は代わる!」
「人間は愚かになる!」
「真実を述べる者は頭を割られる!」
彫像は言いました。
「お戻りになって、陛下にご覧になった通りを申し上げてください。」
そこで使者たちは急いで皇帝のもとへと戻り、起こったことの一部始終を申し上げました。
皇帝は、護衛兵たちに、武装して彫像のある公共広場まで直ちに急行するよう命じました。そして、もし誰かが彫像を傷つけようと試みたら、その者は捕縛され、手足を縛られて裁きの広間までひきずってこられるべきだと命じました。
護衛兵たちは皇帝のご命令を果たそうと急いでやってきました。
そして彫像に近寄ると言いました。
「皇帝のご命令だ。お前を脅したのは誰なのか言え。」
彫像は答えました。
「大工のフォークスを捕まえてください。昨日あいつは皇帝陛下のお触れを破ったのです。そして今朝、私の頭を割るぞと脅かしたのです。」
護衛兵たちは即座にフォークスを逮捕し、裁きの広間まで彼を引きずっていきました。
「友よ」と皇帝は言いました。
「お前について由々しきことを聞いたぞ。何故お前は朕の息子の誕生日に働くのじゃ?」
「陛下」とフォークスは答えました。
「私には陛下の法律を守ることはできかねます。なにせ私は毎日8ペニーを稼がねばなりません。だから昨日も働かねばならなかったのです。」
「何故8ペニーなのじゃ?」と皇帝は尋ねました。
フォークスは答えます。
「一年を通して毎日、私は若い頃に借りた2ペニーを返済せねばなりません。それから、2ペニーを貸し、2ペニーを失い、そして2ペニーを使うのです。」
「どういうことじゃ?もっと詳しく説明せよ」と皇帝は言いました。
「陛下」とフォークスは答えました。
「お聞きください。私は日々2ペニーを年老いた父親に返済せねばなりません。と申しますのも、私が子供の頃、父は毎日それぐらいの額を私のために費やしたからです。父は今では貧しくなり、私の援助を必要としています。それで私は以前に借りた分を返しているのです。
これとは別に私は2ペニーを息子に貸しております。息子は勉学を続けておりますが、もし私が困窮に陥ったときには私に借りを返済するでしょう、丁度私が彼の祖父にしておりますように。
もう2ペニーは妻に浪費する分です。うちのはガミガミ屋で気難しいもので。あの嫌な性分のせいで、あいつにやった物は何であれ無駄遣いだと思うわけなんです。
最後に、残りの2ペニーは自分の肉と酒に使います。毎日働かねばこの全部をまかなうことはできません。これで真実がおわかりになったでしょう。だから、どうか公正なお裁きをお願いします。」
「友よ」と皇帝は言いました。
「よくぞ答えた。行け、そしてお召しに応じて勤勉に働くのだ。」
その日、皇帝は王子の誕生日に労働を禁じる法律を無効にしました。
それからしばらくして皇帝は崩御されました。
代わって大工のフォークスが、その優れた知恵により、皇帝に選出されました。フォークスは賢明な統治を行いました。そしてその死後、8枚のペニー硬貨が飾られた王冠をかぶったフォークスの肖像画が皇室の保管庫に預けられました。
「告げ口する彫像」のお話はこれでお終いです。
権力にものを言わせてご無体な法律を人々に押しつけ、違反者の名前を魔法の彫像に告げ口させるなんて、ひどいですね。悪法を強制されるだけでも苦しいのに、監視され密告され死刑にされるなんて、もうたまりません。
大事な王子様のお誕生日を国をあげて祝わせたい親心はわからないではありませんが、庶民の日々の暮らしやその苦労に心を寄せることこそ、為政者に求められることではないでしょうか。大勢が死刑に追いやられたこの国では、人々の怒りや鬱憤が積りに積もっていたことでしょう。
そんな絶望的な状況を優れた知恵で切り抜け、皇帝を納得させて悪法を取消させたフォークス。彼が次の皇帝に選ばれたのは本当に幸いなことでした。
肖像画のフォークスの王冠には、高価な宝石の代わりに8枚のペニー硬貨が飾られた、というのも、彼の知恵とユーモアと素朴で温かい人柄を感じさせ、素敵だと思いました。
このお話の原文は以下の物語集に収録されています。
今回もお読み下さり、ありがとうございました。
次回をどうぞお楽しみに。