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[西洋の古い物語]『ニャールのサガ』より、「グンナルの死」(第1回)
こんにちは。いつもお読みくださりありがとうございます。
アイスランドに伝わる古い物語『ニャールのサガ』より、「グンナルの死」をお届けしたいと思います。前回までお読みいただきました「ハルゲルヅの夫の殺害」の続きになります。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。
※前回に引き続き、美味しそうなケーキの画像をフォトギャラリーからお借りしました。ありがとうございました。
「グンナルの死」(第1回)
さて、974年の全島民会に参集した男たちの中で、グンナルほど眉目秀麗で、また豪華に装っている者はおりませんでした。彼はハラルド王から賜った緋色の衣装を身につけ、腕にはハーコン伯爵から拝領した黄金の腕輪を帯びておりました。そして、彼の乗馬は艶々とした黒毛でした。
ある朝、立法の丘を離れてモスフェルの人々の天幕を通り過ぎたとき、彼は見事な風采をしておりました。そこへ、彼に劣らず豪華な装いの一人の女性がやってきて彼と出会いました。彼が近寄ると彼女は立ち止まり、自分はハルゲルヅ、ホスクルドの娘であると告げ、彼がグンナルで旅をしていたことを知っている、と言いました。そして、彼女は、海の向こうの土地の珍しい話を聞きたがりました。そこで彼は腰を下ろし、二人は長い間話しました。二人はよく気が合い、親しくなりました。暫くして、彼は彼女に夫がいるのかと尋ねました。
「いいえ」と彼女は答えました。「殿方は私を恐れますの。だって、私が不運をもたらすと思っているのですもの。」
しかし、それを聞いてグンナルは笑って言いました。
「私があなたに結婚を申し込んだら、どうお答えになりますか。」
「からかっていらっしゃるのかしら」とハルゲルヅは言いました。
「いいえ、決して」とグンナルは答えました。
「それなら、父の所へおいでになって。父は何と申しますかしら。」とハルゲルヅは答えました。そこでグンナルは出かけて行きました。
グンナルが到着した時、ホスクルドは小屋の中におりました。フルートもそこにおり、グンナルを歓迎しました。暫くの間、全島民会の案件について話が続きましたが、グンナルは話題を変え、もし自分がハルゲルヅを娶るために結納金を支払うと申し出たらホスクルドはどう答えるか、と訪ねました。
「どう思う、フルート」とホスクルドは尋ねました。
「そうするべきではありません」とフルートは答えました。「あなたについては誰も良い事しか言いませんが、ハルゲルヅについては誰も悪い事しか言いません。私としては、このことをあなたに隠してはならないと思うのですよ。」
「はっきり言って下さり、感謝しますよ」とグンナルは言いました。
「しかし、ハルゲルヅと結婚することについて私の心は変わりません。ハルゲルヅと私は一緒に話をし、この件では同じ考えです。」
しかし、フルートは言っても無駄だと知りながらも、グンナルにハルゲルヅと彼女の二人の夫に関して起こった事を一部始終話して聞かせました。するとグンナルはしばしそのことについて熟考してから言いました。
「前もって警告されていれば前もって備えておける、と言いますからね。ハルゲルヅについてあなたがおっしゃったことは全て、疑いなく真実でしょう。しかし、私は強く、遠くまで旅をした経験もある。取引が折り合うのなら、そうしようじゃありませんか。」
そこで使者がハルゲルヅのもとに送られ、グルームのときのように、彼女は婚約しました。その後、グンナルはニャールのところへ馬を進め、起ったことを彼に話しました。
「あなたと私の間に良くないことが起こるでしょうね」とニャールは悲しげに言いました。
「女でも男でも、誰にも私たちの間に悪事をなさせはしませんよ」とグンナルは答えました。彼はニャールのことを自分の父親よりももっと愛していたのでした。
「彼女はどこに行っても厄介事を起こすでしょうね」とニャールは答えました。
「あなたは彼女のために始終賠償をしなければならないでしょう。」
しかし、彼はそれ以上言いませんでした。彼は賢明な男で、無駄なことは言いませんでしたから。そして、グンナルが結婚式の宴席に来てくれるよう頼むと、行きましょう、と彼は約束しました。
グンナルの結婚式が済み、冬になりますと、彼とハルゲルヅはニャールの家での大宴会に招待されました。ニャールとその妻は彼らに心を込めて歓迎しました。そのうちにニャールの息子ヘルギがやってきました。彼の妻のソールハラも一緒でした。そこでニャールの妻ベルグソーラがハルゲルヅの所へ行き、「ソールハラのために場所をあけてやってくださいな」と言いました。しかし、ハルゲルヅは場所をあけようとせず、ベルグソーラと口喧嘩になりました。しまいにベルグソーラは、ハルゲルヅが謀んで夫のソルヴァルドを死なせたことをなじりました。これを聞くとハルゲルヅは向き直り、グンナルに言いました。
「アイスランド最強の男と結婚しても何の意味もないわね、もしあなたがこの侮辱に仕返ししてくださらないのなら、グンナル。」
しかし、グンナルは、女の喧嘩に関わるのはご免だ、特にニャールの家では微塵も関わりたくない、と叫び、ハルゲルヅに彼と家に帰るよう命じました。
「またお目にかかりましょ、ベルグソーラさん」とハルゲルヅは橇に乗りながら言いました。そして彼らは帰っていき、冬の残りを家で過ごしました。
春が来ると、グンナルは全島民会へと出かけて行きました。彼はハルゲルヅに、彼の友人たちを怒らせる原因を作らないように気を付けなさい、と命じました。しかし、彼女は約束しようとしませんでしたので、彼は重い心で出かけました。
運の悪いことに、ニャールとグンナルはある森を共同で所有しておりました。ニャールとその息子たちが全島民会へと出発すると、ニャールの妻ベルグソーラは、召使のスヴァルトに、火を起こすために枝を何本か件の森から切ってくるよう命じました。その知らせがハルゲルヅの耳に届くと、彼女は恐ろしい形相で呟きました。
「スヴァルトが私の木を盗むのはこれが最後にしてやるわ。」
そして彼女は管理人のコルに、明朝は早く出かけてスヴァウルトを探すよう命じました。
「それで、奴を見つけたら?」とコルは尋ねました。ハルゲルヅは怒ってそっぽを向きました。
「あんた、最低の男のくせに、それをきくの?」と彼女は言いました。
「勿論、あいつを殺すのよ。」
悪いことが起こるだろうとわかっていたので不安ではありましたが、コルは斧を手にとりました。そしてグンナルの馬の一頭に跨がると、森へと出かけていきました。
ほどなく彼は、スヴァルトと部下たちが薪用の枝の束を積んでいるのを見つけました。そこで彼は馬を窪地に残し、茂みの後ろにうずくまりました。やがて、スヴァルトが部下たちに木をニャールの家まで運ぶよう命じるのを、コルは耳にしました。スヴァルト自身はまだ森でなすべき仕事がありました。彼は自分の弓を作る用の高くて真っ直ぐな若木の幹を探してあたりを見回し始めました。そのとき、コルは茂みから飛び出し、スヴァルトに斧で猛烈な一撃を食らわせました。スヴァルトは一言も発さずに絶命して倒れました。そのあと、コルは戻ってハルゲルヅに報告しました。
ハルゲルヅは、元気をお出し、お前は恐れる必要などない、私がお前を守ってあげるのだからね、と言いました。しかしコルの心は重いままでした。
「グンナルの死」(第1回)はここまでです。
ニャールの予言どおり、ハルゲルヅとの結婚生活はグンナルにとって厄介事の多い困難なものとなりそうですね。
次回をどうぞお楽しみに!
この物語の原文は以下に収録されています。
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