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#創作大賞感想『タクトト』
私の大好きな旅田百子さんが『タクトト』の感想
を書いておられた。旅田さんが感想を書かれるほどの作品なら、私も読もう。そして感想を書こう。そう旅田さんの感想を読む前に。
夢を見た。夢の中では、私は母でなく父だった。なぜか私はストラップ付きのスマホケースをふたつ持っていた。ひとつは赤でもうひとつは白。
「どっちがいい?」
と聞いたら、息子は赤いほうを取った。そうか君は赤を取るんだねと思いながら息子の顔を見た。その顔は幼い日の息子のようであり、たった今の孫のようでもあった。私と息子は何をするでもなく、ただ漠然と隣り合ってソファーに座っていた。短い夢だった。
結婚して、私は夫と夫の母と同居した。夫の父はすでに亡くなっていた。自分で望んで同居したのに、夫に頼りながらも支配しようとする義母、そしてそれを当たり前に受け入れている夫、そのどちらにもいらだちがあった。息子が生まれ、育児に口を出してくる義母を避け、できるだけひとりでなんでもやろうとした。そんな思いが態度に出ていたばかりではなく、
「お母さんはおばあちゃんが嫌いなんや」
と、ぽろっと口に出たことがあった。決して息子に向かって言ったことではない。けれど息子はそれを覚えていて、義母に言ったのだ。気まずい瞬間があったものの、言いたくても言えなかったことが、息子の口から伝わったことに、私はほっとした。私はあなたが嫌いだから関わってほしくないんだと、ずっとそう伝えたかったのだ。
けれど、そんなことを息子にさせてはいけなかった。おばあちゃんが嫌いなんや、の代わりに、あなたのことが大好きだ、と言うべきだったのだ。子どもはよく見ている。親の感情を自分のことのように感じている。息子に私の感情を押しつけてはいけなかったのだ。
そんな私に『タクトト』は刺さってきた。家族にはいろいろな形がある。いっしょに暮らせても、暮らせなくても、どんなときも、子どもに大好きだと伝え続けることが大切だ。まわりの事情に関わりなく、いつもいつも好きだと伝え続けることが大切だ。
君は父さんの好物を見つける天才だ
その優しい心が擦り減ってしまわないように
僕も君の笑顔を見守る天才になろうと、想う
私と夫と義母、微妙なバランスを保ちながらの子育てだった。そんな中で息子は、
「ほら、お母さんの大好きなもの」
と言って、いろんなものを持って来てくれた。石ころだったり、花だったり、おやつだったり。どれも何気なく私が好きだと言ったものだ。その優しい心をずっと見守れていただろうか。
離れ離れになっても。君が呼んだところに、君が指差したところに、僕はそこにありたい。
私は、息子にはやくしっかりしてほしかった。それを強く思うあまり、厳しくしつけ、はやく私の手から離そうとした。私は、息子が呼んだところに、指差したところに、いつもちゃんといたのだろうか。
今では息子が父になり、子どもに「とと」と呼ばせている。父になった息子が、どうか子どもが呼んだところに、指差したところに、いてほしい。どんなことがあったとしても、きみが好きだ、と伝え続けてほしい。『タクトト』のととのように。