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小説「キャラメリゼ」

「私、ただキャラメリゼをしたいだけなの」

キャラメリゼとは砂糖や水あめを使って料理に焦げ色を付けたり、香ばしくしたりする調理法を指す。
フランス語ではcarameliser、英語ではcaramelizationと表記される。
キャラメリゼの作り方としては砂糖をバーナーで焦がすものが一般的となる。


ただ、キャラメリゼをしたいだけ。
彼女はバーナーを片手に目の前に立っている。

「私、ただキャラメリゼをしたいだけなの」
バーナーの使い方を知らないわけではないようだ。

「糖質だとか、なんだとか言うじゃない」
暗い部屋を青い灯りが照らす、ガスの匂いが満ちる。

「人の体だって、甘いもので満たされているのよ、だったらキャラメリゼできるはずでしょう」

「私はキャラメリゼしたいだけなのよ」
「やめろよ、馬鹿なこと言うなよ!ふざけんなよ! 」
後ろ手のロープはとても固く結ばれている。全身を揺らすが、逃げることはできない。

「私の創作お菓子」
「助けてくれ!いやだ!  」

そこで照明がついた。

彼女は笑っていた。ドアが開いて友人たちが入って来た。

趣味の悪いイタズラに付き合わされたようだ。
ロープをほどかれて、苦笑してしまう。

キャラメリゼを覚えたての友人が考えたらしい。バカな話だ。
まさか誕生日にこんな目にあうとは。

キャラメリゼされたパイを食べて、騒いだ後に友人たちは帰っていった。


残されていたバーナーを手に取る。

普段、話さない隣人を訪ねる。

「俺、キャラメリゼしたいだけなんだよ」

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