【時空と】空間と作品 作品が見てきた風景をさぐる アーティゾン美術館
今回は所蔵品のみの構成による展覧会。台風の合間の金曜日の夜に訪問。
「所蔵品のみで構成」ということで「おなじみの作品も多いだろうしどんなもんかな」と軽い気持ちで出かけてみたら、好奇心を存分に刺激され楽しめた展覧会だった。
展示の概要
今回はキャプションが印象的。
絵の外側の話、額縁
長年、絵や立体作品を見ながら台座や額縁が気になっていた。
この絵を飾り立てる額も相当な歴史をくぐり抜けているのでは?と思うような素材感やデザインがあったり、なんでこの額縁なの?が気になることもあった。
絵の中身の話は良くしてもらえるが額縁は文字通り枠外。
今回はそんな疑問が少し解消するような、そんな解説がとても面白かった。
特に藤田嗣治が額まで自作していた話や、青木繁の海の幸の額縁の謎など。
わかるもの、わかんなくなってしまったもの様々な理由が面白かった。
アーティゾン美術館の資料・独自研究を駆使した展示は、毎回自分の満足度が高い。ここは年表芸も好きだ。
美術館の歴史としても長いので独自の研究も続けられて、資料もしっかり残っているのだろう。
しかし、社会科的な話が好きなので私は興奮するのだけども、純粋に絵画を見に来た人にとっては情報過多、ノイズになるのかも知れない。
ふと、思い出したが自分が学生のころ得意な教科って美術ではなく社会科だったな…好きなこと、もの、の底にあるものは根強い。
絵がたどった運命、今、目の前にある偶然
ビゴーの絵が!出てましてね!
この人の風刺画の載る社会科資料集で学んだ世代としてはポツポツと見かけるビゴーの油画にグッとくるのですよ。
今回は、このカタカナで書かれた「ビゴー」のサインに気がついて惹かれた。カタカナ…かわいい。
このビゴーの絵は岡田三郎助が所持していた。岡田三郎助のキャプションにあるQRコードを読み込むと以下の情報が出てくる。
実際の資料は1920年3月10日の都新聞の画像。そこにこう記載されている。
不思議。ビゴーの絵を価値あるものとして所持、受け継いできた人が画家であるという。私は社会科資料集からビゴーの名を知ったわけで油絵画家としてより風刺画家、イラストレータ的な人と思っていた。でも小学生から知っている。それは30年以上経った今もそうだ。子どもたちの教科書にも載っている。
ビゴーは、西洋絵画の教育者として生計を立てるために来日したが、その頃にはもう日本人自体が「西洋画を学びたかったら自ら海外へ留学する」時代になっていて、というちょっとズレが起こってしまった人だ。
今、こうして日本にいくつか絵画が残っていることがなんとも言えない不思議さを感じるのだ。残そうとした人の視点と感性に助けられ100年以上経った後も私の目で見ることができている。
前田青邨を見直す
実は重要文化財の「洞窟の頼朝」などはあまりピンとこなかったのだ。
が、この風神雷神を見よ!
もー、めちゃくちゃ良い尻。風神なんで後ろ姿なの。
履いているパンツみたいなのがまた良かった。
こんなアグレッシブな絵、あるんだ、と思わず笑顔になってしまった。
描いてて楽しかったのではないかなー。
とても好き。これを収蔵した、コレクションした経緯こそ知りたかったが、それについての記述はなし。気になる。
面白い試みだと思う
おお!という発見や絵画にまつわる情報開示が多く、たまたま自分が長年疑問に思ってきたとこの解もあったりと十分に楽しめた。
博物学、歴史学的な話が多かったかも。
ただ、これは何度かアーティゾン美術館に来たことがあり、どんな作品を持っているかという前提を知っている人間だから楽しめたのであり、初めての美術鑑賞がこの展覧会だったら、と思うと少し戸惑うかもしれない。
美術館側は「解説は見ても見なくてもよいよ」というスタンスをとっていたが、できるなら文字情報はスマホでなく、冊子としても配ってほしかったなと。
スマホでいちいちQRコードを読み込ませて読ませる解説は多少集中力が切れる。しかもかなりの枚数。
面白かったからどんどん読んだけど、流石に最後の方は面倒くさくなってしまった。あと、お年寄りやデジタルリテラシーの低い人は億劫かもしれない。
内容も、英語対応もアイデアはすごく良いと思うけども。
しかし図録の販売がない。今回こそ作ってほしかった。(足利市立美術館を見習ってほしい)
恐らく問い合わせが多いのだろう、shopの入口に札があった。
来訪者アンケートをそろそろ設置したほうがよいのでは?
今回私のレポではぜんぜん触れられなかったが、第1会場のインテリア×所蔵品のコーナーは文句なしに良かったので、そこだけ見に行くというのもでも十分に楽しめると思う展覧会だ。