見出し画像

【リアルの境目】上田薫展 誰も見たことのないリアル 高松市美術館開館35周年記念特別展 美術をめぐる旅1

スーパーリアリズムの第一人者、上田薫氏の個展が高松市美術館で開催されている。

【ことの発端】

先日、東京国立近代美術館のコレクション展で、上田氏の「スプーンに水飴」が展示されていたのだ。
何分でも見ていられると思った。
その時「高松市美術館で個展やるんだよなぁ…高松かぁ…遠いなぁ他に見どころ…高松まで行くならば直島もね…あ、イサムノグチ庭園美術館あるじゃない!」
と、妄想が進む。

【旅の始まり】

いつの間にか高松だったらもしかして常設展示室で電気服見れるんじゃね??という強い関心にかわり…旅券の検索が始まり(この時点はまだ妄想)。
ある日「あれ?この時期二泊三日の航空券付きで3万円以下で行けるの!ええいままよ!」
ポチッー!
と決済してしまったのだ。
夫に一応相談したけど「相談の時点で決意表明みたいなもんだよね?笑」と大笑いされた。
反論できぬ。
子供達が通知表を持ち帰る日だったが、通知表はいつでも見れるよ、展示は期間限定だからね、と送り出された。ありがたい話である。

【展示について】

東京都現代美術館のコレクション展示でも「生卵」の作品は、昔からよく展示されていた。初期収蔵品若しくは都美術館時代に収蔵されていたのかもしれない。
中高生の頃見ていたときには
「あぁ、これぞ現代美術だな」
と思っていた。
「このような作品こそが『現代美術』を体現している」と何故か強く思ったのだ。
なんでだろう。写真で済むものだけれど、それを絵で挑戦するというアナログ感とか、そういう気概のような部分を「今っぽい」と捉えたのかも知れない。

数年前、東京都現代美術館で行われたアンケートで「印象に残っている作品は?」という問いの回答上位に「生卵」の作品がランクインしていたそうだ。多くの人にとって印象に残っている作品なんだろう。

そんな思い出もあり、今回、高松市美術館で開催された個展では上田氏の作品をまとめてみるチャンスだった。
(実はここ数年関東でも個展は開催していたはずだが、茨城も埼玉も神奈川も全て見逃していたのだ)

改めて初期の作品は抽象画家として、そしてデザイナー時代からスーパーリアリズム画家へ。

デッサン「裸婦」1952年頃。梅原龍三郎教室で学んでいたとのこと。歴史の重み。
すごくかっこいい。「階段を上がる女」1969年頃。シルクスクリーンみたい。


やはり個展でまとめて作品を観れるのは良い。
点で捉えていた作品を線で繋いでいくことができる。それが新たな発見や感動に繋がる。

【代表作 生卵と時代背景】

生卵をスローで捉えた絵画は写真を参考に描いたというけれど、そもそも今よりも写真を撮るのが大変な時代だ。

これぞ上田薫
目玉焼きバージョンもあった。

1970年代。カラーフィルムは普及済み。ではカメラは?50年前の写真技術を想像して欲しい。

まず生卵をスロー写真の様に収めるのが大変である。
200個ほど割った、との記載が。
カメラマンとの共同作業だったようだ。
あの頃の一眼レフの機能にオート連写とか出来たのかな…?ちょっと調べると連写機能の搭載機がCanonから出たのが76年頃。
オートフォーカスもまだ怪しい時代、その連写カメラが一般化していたかは微妙である。
そしてフィルム時代真っ只中。撮影が成功しているか否かは今のように手元ですぐに確認できない。
失敗していた時はショックだろうな…
そんな苦労を得て撮影した写真を今度はキャンバスに投影して着彩していく。
この手法は先日個展があった今井俊介氏もとっていたが、上田氏は50年前からやっていたとは。

それはおそらく上田薫氏がグラフィックデザイナーとして活動していたことが大きく影響している。広告やポスターを手がけた氏だからこそ写真を撮ることが身近で、この手法だったのかも知れない。


西友の広告



(そういえば、昔は映画の看板も手描きだったよね。看板職人もスーパーリアリズム作家だったのか?)


スプーンのアイスから生卵へ、そしてガラス、泡や水へモチーフが移っていくがどれも画面を見ていて飽きない。

アイスクリームが溶けて垂れるという体験で、リアリズムへ進むきっかけになったそうだ。純粋に美味しそうでこの後アイス食べましたね。
こういう形のゼリー作るミックスみたいなの流行りましたね。ハ◯ス食品のゼリーミックスみたいな。時代を感じます。


コップシリーズ。こちらも現代美術館にもありますね。

ゆっくり見れる事を良いことに、どこから見たらパッと見写真で、どの距離感ぐらいから絵だな、とわかるのか自分の目を試しながら絵画を楽しんだ。


この距離からだとほぼ写真?
まだ写真っぽさ
この距離だと絵だなとわかる。(ズームで撮影)
映り込んでいるのは作者本人


どの位置から「絵の具感」が出現するのか絶妙なのだ。

【現在の上田薫】

1928年生まれ。
齢90歳を超えても創作に対する熱意は衰えず、筆を握ってスーパーリアリズム絵画を描き続ける2019年頃のドキュメンタリー映像を見たことがある。
目が悪くなってきて思う様にリアリズムを追求した作品が徐々に描けなくなってきたそうだが、2021年頃までスーパーリアリズムの手法で描かれている作品はある。

2020年
左、1971年と右、2019年


2022年ごろからイラストやとてもかわいらしい生物が描かれた作品が並ぶ。現在、かつての手法で書くことは難しいが、初期の抽象表現を彷彿とさせるような作品は見ていて笑みがこぼれる。

なんて素敵な色彩
うみうし!
「もう少しかわいかった」に思わず吹き出してしまった。

どれも楽しそうで、なんだかワクワクしたのだ。
どうやら、身体の不自由もある。それでも絵を描く。
すごい。筆を握り続ける気力、意欲。
現在の上田薫氏の作品は「純粋に描くのが楽しいのだろうな」という楽しさ面白さが画面から伝わり底無しに明るい。

見る、見つめる楽しさを教えてくれた絵画。
生卵の絵たち。
制作当時の裏側や、現在の様子などひとつづきに楽しめる良質な展示だった。

高松まで飛んで良かった。

近代にあった水飴のミニ版がありました。

いいなと思ったら応援しよう!