スピードの限界
僕には人生で初めて400cc のバイクを買って
初めて公道を走った日のことを今でも覚えています。
初めての400ccですから、オートバイに乗ることにワクワク・ドキドキ
しながら乗りました。
その辺の胸躍るような気持ちはオートバイに乗る皆さんが初めてオートバイに乗った時となにも変わりません。
楽しいはずのオートバイではありますが、ある程度の速度になると少し怖い感じがしてアクセルを戻して速度を抑えていました。
そうです、その通り、理由ははっきりしています。
速いスピードは当時の僕には怖かったのです。
まだ速度に目が慣れていなくて
目に見える視界の流れの速さに目が追い付かなくて
だから速度を上げれば上げるほど
怖さも増していきました。
これは、恐らくは本能的に自分の能力がまだ速度に対応できていないこと、
それを超えれば運転操作のあらゆることに対応できなくなるということを
直感的に理解していたということでもあります。
ところがです。
1年乗り続け、2年も経ってくると事態は大きく変わっています。
60km/hでも怖いと思っていた初心者だったのに
100km/h以上の速度で走っても平気
750ccに乗り換えた頃にはスピードメーターの目盛りいっぱいまでの速度でも恐怖心はありませんでした
そうです、知らず知らずのうちに速度にも慣れ、僕の目はそれなりのスピードにも対応できるようになりました。
ところがです、「怖くない」からといって、100km/h 、120km/hを超える速度で走っていて、走行中に何があっても事故を回避できるのか?
という疑問にぶち当たります。
当時は若気の至りですから、そんなことも気にしないで走ってはいましたが、今にして思えば
「そんなこと、できるわけねぇだろ!」
と思います。
目が慣れたからといって、速度に慣れたからといって、
そんなもの対応などできっこありません。
危険を察知するためにかかる時間
察知したことに対して反応するのにかかる時間
実際にブレーキやや体重移動などの回避行動をするための時間
行動を起こしてからバイクがそれに応じて挙動を変えるための時間
これらのような、事故を回避するためにの
危険を察知してから回避できるまでにかかる物理的な時間はどんなに頑張っても短くする方法がありません
短くできないどころかむしろ、速度が出れば出るほど、反比例的に
事故回避の操作をするために与えられる時間は短くなっていきます。
科学的な根拠はありませんが、恐らく、僕らが咄嗟の事故回避行動を起こして事故を避けることのできる速度はせいぜい頑張っても
一般道(市街地)なら80km/h くらい
渋滞していない高速道路でも 120km/h くらいが限界だろうと思います。
もちろん、それ以下の速度なら事故は起きませんなどという意味ではありませんし、そんな保証はどこにもありません。
『恐怖心がない』 という事と、『事故を回避できる』 という事はまったく別物だということです。
ただ、幸いなことに、速度に対する恐怖心というのは信用できます。
恐怖心があるということは、前述のように、『その速度では何かあっても対応できない』 ということを直感的に理解しているということでもあります。
ですから、スピードに対して「怖い」と感じたら、素直に怖くないと思えるスピードに落とせば良いのです。
この「直感からの警告」を無視して、なんとか他のバイクについて行こうとしてスピードを出すと体の反応も適切な操作も追いつかずに
転倒や事故につながる可能性は格段に高くなります。
しかし、怖いという自分の感性に従って、無理にスピードを出さない
ようにすれば、危険を最小限にできるし危険回避操作もできる可能性は高くなります
しかし、これにはデメリットもあります。
怖いと感じる少し手前のスピードで走ると、なんとか恐怖心はなくなります
が、決して余裕があるわけではありません。
走行中に、横からの人の飛び出しや自転車の飛び出し、
ひょっこり車が出て来たとか、前の車が急停止したとか・・・
十分停止距離が取れているのだから、適切にブレーキをかければ十分に
間に合う距離であったとしても
一瞬パニックになってしまうと
ブレーキの強弱を考えずに持てる限りの力でブレーキをかけたりして、
バイクの急激な挙動変化をコントロールできずに転倒してしまう、そんなことにもなりかねません。
こんな風に、恐怖心を持つことが悪いことではありませんが
いざという時にパニックになってしまったのでは意味がありません。
速いスピードにも慣れておく、これは有効な事故対策かもしれません。
同じ 60km/h で咄嗟の回避行動をとったとしても
気持ちに余裕のある60km/h と
まるで余裕のない60km/h とでは
咄嗟の操作に違いが出て来ます。
ですから、そこそこの速度でも冷静に目の前の危険を察知し冷静に対応できるようなスピード慣れをしておくことも大切なんじゃないかと思います。
もちろん、いつでもどこでも 100km/h 以上で走ろうとか
速く走るのが偉いとか、そういう事ではまったくありません。
マスツーリングをして、置いていかれないように無理に自分の余裕のない速度で走るようなことがないように、
そこそこの速度でも余裕を残す走り方ができると楽なんじゃないだろうか、そういう話でした。