夏惜しむ西瓜
「本当に君は夏が似合うね」なんて貴方は云った。嬉しかった。だけど私は冬が好きだ。
貴方の為に焼いてあげた食パンにキンカンを塗りたくって、知らん顔して生ゴミの袋に投げ入れたい。
ふと、夏の匂いがした。
夏の匂いって何なのだろうか。私は、地面に染み込んだ雨のあのじめっぽい匂いを雨の匂いと呼んでいるように、春夏秋冬それぞれの匂いもそれなりに把握しているつもりだ。
懐かしいのに新鮮な匂いだ。あの感覚をいつまでも持ち続けていようと思う。
あの日から何か変わっただろうか。初夏が過ぎ、盆が過ぎ、あんなに遠く感じた秋の匂いはもう直ぐ後ろに立って居る。墓参りから帰って来た後の妙な悪寒をまだ覚えている。蚊取線香の煙たい空気を深く吸い込んでから、外へ出てみた。只々、空がどこまでも水色に滲んでいた。あと1週間で夏休みも終わる。
来年の今頃なんてくそくらえ。
何になりたい訳でも無く、只単純に認められたいから何かになりたかった。何かになるしかなかった。
承認欲求はそろそろ正式に第4の欲求として認められるべきだ。
このどうしようも無い、よくわからない、どうでもいい衝動を無理矢理例えようものならば、頭がかち割れるだろう。でも、どうせかち割れるのなら貴方にかち割られたい。かち割っても分かち合えないだろうけど。
私は多分、西瓜女と言われたかった。
高校生最後の夏休み。
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