見出し画像

【発達障害短編小説】異能の輝き〜第5章 廃工場への道〜

第5章 廃工場への道

 夕暮れが迫る中、葵と大和は廃工場へと向かっていた。
 住所をもとにたどり着いたその場所は、荒れ果てた建物がいくつも並ぶ閑散とした工業地帯だった。
 鉄のフェンスが錆びつき、無数の落書きが壁を覆っている。
 人の気配はなく、空気には静かな不気味さが漂っていた。

 「ここで本当に合ってるのか?」と、大和は不 
 安げに周囲を見回した。

 「たぶん…でも、少し怖いね」と葵も小さな声
 で答えた。

 二人はしばらく躊躇していたが、ついに重い扉を押して廃工場の中へと足を踏み入れた。
 中は薄暗く、埃っぽい空気が漂っている。
 古びた機械や使われていない鉄骨が無造作に転がり、まるで時間が止まったかのような静けさが広がっていた。

 「誰もいないみたいだな…」と、大和がぽつり
 とつぶやく。

 だが、葵はその場の異様な雰囲気を敏感に感じ取っていた。
 空気が張り詰め、見えない何かが自分たちを見守っているような感覚があった。

 「いや、誰かいる…」

 葵が小さな声で言った瞬間、後ろの暗がりから足音が響き渡った。

 「その通り。君たちを待っていたよ。」

 その声に二人は驚き、振り返ると、一人の若い女性が静かに立っていた。
 長い黒髪を無造作にまとめ、鋭い眼差しを持つその女性は、どこか神秘的な雰囲気を漂わせていた。
 彼女は微笑んで近づき、手を差し出した。

 「初めまして。私は**真奈美(まなみ)**。あ 
 なたたちと同じく、超覚醒者よ。」

 その言葉に葵と大和は驚きと安堵の表情を見せた。ついに、同じ力を持つ仲間と出会えたのだ。

 「あなたたちが来ることはわかっていたわ」

 と真奈美は静かに語りかける。

 「私の能力は、感情や意図を読み取ること。遠
 くからでも、あなたたちの不安や期待が伝わっ
 てきたの。」


 「感情を読み取る…?」

 大和が興味深そうに問いかける。

 真奈美は頷き、少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。
 「ええ。周囲の人々が何を感じているのか、い
 つも頭の中に入ってくるの。でも、それが必ず
 しも良いこととは限らない。人の悲しみや怒り
 も感じ取ってしまうから…」

 葵はその話を聞いて、彼女がどれほど苦しんでいるのかが伝わってきた。
 自分たちの能力もまた、祝福ではなく呪いのように感じる瞬間がある。
 だが、真奈美もまた同じ道を歩んできたのだろう。

 「他にもいるの?」

 と、葵が聞いた。

 真奈美は頷き、ゆっくりと歩き出した。

 「ええ、ここには他にも仲間がいるわ。あなた
 たちのように能力に目覚め、社会から身を隠す
 ために集まっている人たちが。今はまだ小さな
 集団だけど、私たちは共に生きるための方法を
 探しているの」

 葵と大和は真奈美の後に続き、工場の奥へと進んだ。
 薄暗い廊下を抜けた先には、広い空間が広がっていた。
 そこには数人の男女が集まっており、それぞれが静かに談笑したり、作業に没頭していた。
 年齢も性別も様々だったが、どの顔にも不安と決意が交錯しているように見えた。

 「ここが、私たちの居場所よ」

 と真奈美が紹介した。

 「みんな、それぞれに能力を持っている。だけ
 ど、私たちはこの力をコントロールする方法を
 まだ完全には理解していない。あなたたちも、
 その一員として手を貸してくれる?」

 葵は一瞬戸惑ったが、すぐに頷いた。
 自分の力が何なのか、どう使うべきなのかを知る手がかりがここにあるかもしれない。
 大和もまた、無言で頷き、覚悟を決めた表情を浮かべていた。

次回、「第6章 共鳴」

いいなと思ったら応援しよう!