「𠔉」の字源考察


前置き

ここでは「/*k(r)onʔ/」「/*N-kron/」「/*kʰon-s/」などの上部に共通する「𠔉」を諧声域/*KON/を持つ声符とみなし、その字源について考える。

考察

確実な「𠔉」の一番最初の資料は、西周中期の金文に見える「⿰阝龹𨹵/*k(r)onʔ/}」に含まれた字形である。両手(廾)に三つの点のようなものを持った字形をしている。

⿰阝龹{𨹵}

この字形は春秋・戦国時代の「」や「」に非常に似ている。

左から春秋時代の「」「

しかしこれらの西周金文を見てみると、違う文字であることが分かる。

左から西周中期の「」「

」や「」は棒状のものを持っていることに加え、上部に「八」のようなパーツを持っていない。これらの字に「八」のようなパーツが加えられるのは西周後期以降である。

甲骨文には以下のような字が出現する。

この字は人名として出現しており、その義などは分かっていない。しかしいずれも二つの手と三つの点で構成されている。これは西周金文に出現する「𠔉」の特徴と一致している。つまり、これらが「𠔉」の初文であると推定できる。

ここからは原義を考える。
甲骨文中に登場する"点"の役割は概ね以下の通りである。

  1. 細々としたものを表す。

    • 「小」砂粒の象形。

    • 「糞」ゴミをちり取りに入れる象形。

  2. 水滴を表す。

    • 「水」水流と水滴の象形。

    • 「眔」目から涙を流す象形。

これらのことから、この字は「手で細々としたものをまとめるさま」或いは「手を洗うさま」を象っているように見える。特に注目してほしいのが後者の「手を洗うさま」である。

上古漢語に、「てをあらう」を意味する漢語{/*kˤon-s/}が存在する。この単語を表す文字には西周から春秋にかけて以下のような字形が存在する。

一番左のみ西周時代のもの

これをみると分かるように「𠔉」が含まれている。構成部品に見える「」、「」、「」は全て加注義符と見なすことが出来る。(「」のように見えるが、「」は「」に訛変することがよくある)
つまり、「𠔉」は{}の象形文字である。

まとめ

手を洗う様を象る。
「てをあらう」を意味する漢語{盥/*kˤon-s/}を表す字。

参考

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