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思い立って資格を取るまでのお話(7)

「楽しく」学ぶことを大切に

父が求めた理想像

「我が家は受験という空気がない!」

 中学でも高校でも、我が家に「受験生」がいると、父は必ずこう言った。

 中学(高校)3年生だというのに見たいテレビは見て、いつもと何ら変わらない空気だったからだろう。よくある「落ちる」「すべる」などの受験の際に嫌われる言葉も普通に飛び交っていたし、ピリピリとした空気はまったくといっていいほどなかったのが我が家だった。
 それが気に入らないのが父。何かと、自分の兄とその子ども(私にとっての伯父といとこ)のところと比較して言う。
「兄貴のところは、家中の至るところに志望校を書いた紙を貼っているし、スリッパにも応援メッセージが縫いつけてあったぞ! 食べ終わったと思ったらすぐに部屋にこもっていた。それに比べて何だ、我が家は! だらけてる!」
 食べ終わってすぐに部屋にこもるのは、我が家も一緒。父が帰ってくるのが9時前かいつもどおり9時より後かで、さっさと部屋にこもるか、テレビを見ていたか、それだけのちがい。第一いとこだって、本当に部屋にこもって勉強「ばかり」していたのか? 部屋の中まで見ていないのなら、「本当に勉強していたかどうか」は、誰も知らないはず。もしかしてテキストを開いて勉強しているフリをして休憩しているかもしれないのに。
 何も受験生のいる家庭全部が全部ピリピリしている必要はないと思うのだが、学歴や知名度、体裁重視の父らしいといえば父らしい。私たちきょうだいは、(3)自分の成育歴・親との関係で書いた「確信犯的な発言」と合わせていい加減慣れていて、「はいはい、また言ってるわ」という感じで諦めて部屋には行くものの、入ってしまえばあとは勉強をしているフリをしていた。
 母は母で、父がいないときに
「何もセンター試験を受けて、というのだけが受験だとは思わないよ。お母さんだって、共通一次試験を受けないで早々と決めちゃったんだし」
と言ってくれていた分、気が楽ではあった。どういう過程で進路を決めようが、その先はそれぞれが国家資格を取得して(私の場合は取ろうとして)、その資格を活かした仕事をしている。これもひとつの道だと私は思う。

どうやったら勉強しやすいだろうか?

 保育士の勉強をするにあたっても、集中するという意味ではみっちり勉強モード! でやることも大事だけど、あまりに勉強勉強! だと息苦しくなるなと思った。
 A.S.ニイル(★)は、こう言った。

「子どもは興味のあるときに学んでこそ、もっともよく伸びる」

 子どもでなくたって「興味のあることは吸収が早い・忘れない」ことは、大人でもゲームの攻略や自身にとっておもしろかった! ためになった! と感じる講演などで何となく体験はしているだろう。今が私にとって「興味のあることを学ぶタイミング」だとして、学びをさらに加速させるオプションを加えたい。勉強が少しでも息苦しくないものにするためには、じゃあどうすればいいだろう? と考えたとき、わずかでも「楽しむこと」を意識した。
 どう楽しめばいいだろう? とさらに考えて、私の場合、「適度にカラフル」なのが好きだ。また、文字だらけよりも絵が入っているほうが、窮屈な中にほっと一息の「間」があるような気がするし、何より実技の練習にもなる。そうでなくても元々私は、下手なりに絵を描くことが好きだ。授業中のノートでも「ワンポイントアドバイス」の箇所では、解説員のようにキャラを登場させてたじゃないか。
 
 これを踏まえて、私は100円ショップで矢印のシールとインデックスふせん、B5のバインダーを2冊購入した。B5のルーズリーフは過去に必要になった都度買っていたので、中途半端なものがたくさんある。それを活用していこう。バインダーはテキストが上下巻のものだったので、上巻で1冊、下巻で1冊のつもりで。この目論見は見事に外れて、ルーズリーフとバインダーともに後に足りなくなった。筆記試験までにさらにルーズリーフ2袋、バインダー3冊を買い足している。
 筆記具もシャープペンシルではなく、「後で見返しても読めるよう」、黒いペンを使った。色ごとにインクを入れ替えられるタイプの4色用のペンを2本買い、黒と他3色で1セット、その他の4色で1セットの2本をそろえた。インクも、黒を中心に途中で何度も買い足した。
 他にも、別用途で新しく買い足したマスキングテープ。柄が描かれたシール。もったいないと思われるかもしれないが、あくまで私にとっては「これだけがんばったんだ」と後で見返して懐かしさに浸るとき。資格を取ってからも振り返るとき。できるだけ長い間、美しく残しておきたいため。そのための投資と思えば、額が大きくないこともあって、もったいないとは思わなかった。
 こうして始める前からわくわくした状態で楽しく取りかかれたら、きっと勉強の取りかかりもスムーズで、挫折しにくいだろう。そう踏んでのことだったが、これはあくまで私個人としては正解だったと思う。

(★) A.S.ニイル(Alexander Sutherland Neill  1883-1973) 「フリースクールの元祖」と言われる、サマーヒルスクールの開設者。

自分にとって学びやすいのは・・・?

実例があれば、結びつける

 何もわからないなりに過去問題を解いてみて、法令や功績などよりも実例問題が得意だと傾向がわかったので、「法令や功績のままではなく、できるだけ『実例』や『自分だけのエピソード』に落とし込む」ことができたら、もしかして覚えやすいのではないか。
 例をあげると、「保育の心理学」で出てくる「レディネス」。意味としては「(その訓練や学習を受けるのに)適した内的な準備や成熟の状態」のこと。言葉のみではなかなか理解できなかったので、ここで私は、別のことに置き換えた。
 算数で掛け算を理解する前に面積を(計算で)求めることはできない。「先に覚えるべきことを覚えてからでないと、土台はぐらついたまま。従って先取って覚えるつもりがその基礎も覚えられない」という状態が起こる。
 また、「レディネス」は早期教育の際に必ずといっていいほどキーワードとして取り上げられるので、算数のエピソードに置き換えるのと同時に、大学時代の先生の顔を思い出した。教育心理学を担当していた先生が、早期教育については理論をもとに(ほぼ)完全否定していたな、と。大学時代の授業の内容は覚えていなくても、こういった「ちょっと逸れたところ」は覚えている。 
 他にも、「教育原理」の中で、「アヴェロンの野生児」が出てくる。これは、オオカミに育てられた2人の子どもの話。その後保護されて人間らしい生活を送ることはできたが、知能水準は17歳ぐらいになっても3歳半程度だったという、「人間の子どもが人間らしく発達するためには、適切な環境や教育が必要だ」と語るときに必ずといっていいほど出てくるエピソードだ。
 私はこれを、大学の授業で学んだ。学んだことは覚えているし、テストでも「『アマラとカマラ』について記述せよ」と出題されたことを覚えている。何で覚えているかというと、当時この問題に「アヴェロンの野生児」「環境説」などのキーワードをまったく書けず、単位を落としただろうと思われたから(結局単位は落とさずにすんだ)。
 いずれも個人的なエピソードではある。先生の顔を思い浮かべたり、「あの時答えられなかったやつ!」というエピソードが、「よぉし、今度はちゃんと覚えるぞ!」と結びついて、今度はしっかり覚えることができた(はず)。
 
 他、「保育所保育指針」に記載されたねらい及び内容についても、「どの年齢だとどういう感じ」と想像すると、割と覚えやすかった。例えば粘土があった場合、「感触を楽しむ」のと「何か具体的に作ろうとする」とあった時は、1~3歳は「あくまで『知る』」、3歳児以降(幼稚園の年少以降に相当)は「『知る』よりも『発展・ひろがりがある』」といったように。ちょうど自身の子どもが1~3歳と3歳児以上だったこともあって、「下の子なら、上の子なら」と置き換えて考えることもできた。マグネットのブロックできょうだいで遊んでいて、上の子は上手に積んで作品をつくろうとしていて、下の子はとにかく長くつなげていた。
 「保育所保育指針」によると、1~3歳児の「表現」の「内容」には、
 
 1)水、砂、土、紙、粘土など様々な素材に触れて楽しむ。
 3)生活の中で様々な音、形、色、手触り、動き、味、香りなどに気付いたり、感じたりして楽しむ。
 
などとある。これが3歳以上児の「表現」の「内容」だと、
 
 1)生活の中で様々な音、形、色、手触り、動きなどに気付いたり、感じたりするなどして楽しむ。
 4)感じたこと、考えたことなどを音や動きなどで表現したり、自由にかいたり、つくったりなどする。
 5)いろいろな素材に親しみ、工夫して遊ぶ。

などとなっている。
「おかーさん、○○(下の子)、みて~! めっちゃ長くつないでる!」
と上の子が言うので、
「うん、○○は○○なりに楽しんでるんだよ。○○は、もちろん何かをつくってもいいけど、こうして感触を楽しんで、『これはこういうふうにできるんだ』っていうのを勉強しているのかもね」
「○○(上の子)は、これは磁石でくっつくことを知ってるから、ただくっつけるだけじゃなくて、いろんな形に作ったりとか、工夫ができるでしょ? 小さいうちにこうやって触れて、大きくなって『どういうふうに使おうかな?』って、工夫したり考えたりして使えるようになっていくんだよ」
 日常の、こういった何気ない会話で出すことでも、自分の知識として少しずつ定着していけたような気がする。
 
 私の場合、予定も携帯より手帳。勉強もとにかく書いて書きまくるアナログ人間だけど、それ以外にもエピソードや感覚を取り込んで、「自分の中に強く印象に残すこと」。あわせて絵を描いたり、色味やシールで「自分自身が楽しむこと」。この2つを意識して、可能な限り覚えていこう! と取り組んだ。

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