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言葉を伝えたければ想いを育てることだ
いつか読んだ本で
「言葉にできないのは考えていないのと同じだ」と
いうフレーズを読んだことがある。
私は、ずっと幼少期から雄弁ではないし、口下手だったと思っていた。
どちらかというと、思うことはあるのに相手に伝えようとすると感情が勝ってしまい、言葉にならないことの方が多かった。
言葉にしないようにしていたという方が合っているかもしれない。今思うと、小学生の私には受け止めきれない出来事もあった。あの時の私に走って行って、ただ寄り添い抱きしめてあげたくなる経験をした高校生時代もあった。感受性が誰より強いくせに、私は「感じないこと」を得意としていた。受け止めて感じる前に、受け流すことを覚えた。
そんな私が、社会人になり営業という仕事を始めた。
初めは、決められた営業トークの台本を丸覚えして、お客様にそのまま伝えることが精一杯だった。
そして、段々と話せるようになった。何を質問されても、所謂、反論を出されても怯まず返答できるようになった。
でも、不思議とスラスラ決まった言葉がでている時よりも、たどたどしいながらも、懸命に伝えていた新人の時の方が仕事は楽しかった。
言葉が相手の心に響く感覚が好きだった。
言葉が届くと、人は自然に動き出す。
感情が変わるから言葉が変わる。
言葉が変われば、行動が変わる。
行動が変わるから、結果が変わる。
営業という仕事を通して、とことん自分というものと、お客様の心というものに向き合ってみた。お客様に自分の伝えたいことが伝わらないことが苦しかった。営業結果が出せないことで、社会から必要とされていないと錯覚してしまうことが苦しかった。何より応援してくれる人の期待に答えられない自分と向き合うことが苦しかった。
自分と向き合うのは怖い。自分を否定されるのは怖い。自分を認識されないのは怖い。
でも、何度も受け止めてみた。
自分の気持ちをみるのは怖い。
でも、深く深く向き合ってみると常に誰かにとっての「正解」の言葉を用意していた私の答えが自分の感情を素直に表現するゴールに変わった。
すると、自然と自分の届けたい言葉が溢れ出るようになった。
自分の言葉が溢れ出るようになると、素直に相手の心をまっすぐ見ることができるようになった。
相手の心をまっすぐ見れるようになると、相手の言葉を受け止められるようになる。
相手の言葉を受け止められるようになると、相手の心を言葉にすることができるようになる。
相手の心を言葉にできるようになると、相手の心と自分の心が繋がる瞬間が産まれる。
そう、出発点は自分を感じて受け止めることからなのだということを知った。
私が苦しくなる時は、借りてきた言葉を話している自分を自覚する時だ。
誰かの目線を気にして、他人の目を気にする“私”から言わされている言葉を話している時。
本や影響力のある人の受け入れで、経験なくそれらしいことは伝えているのに言葉が軽く、相手と心を共有できない時。
だからこそ、自身を生きることが私にはとても大切なのだと知った。
経験を共にした言葉は力強く、魂が宿る。
感情がのり、その人にしか伝えることができない言葉に変わる。
自身を生きるとは、自分に問い続けることなのだと思う。
なぜ、この出来事が起こったのか?
なぜ、私はこんなに胸がしめつけられるのか?
私は、どうしたいのか?
言葉になるまで、何度も問い続けてみる。
そして、その出来事に対して、私は今何を感じているのか?
悲しいの?
嬉しいの?
嫌なの?
本当はどうしたかったの?
どんな感情を感じたかったの?
言葉になるまで、何度も問い続けてみる。
「感じないこと」を得意としていた私にはなかなか辛く長い道のりだった。
気付きたくない自分に出会うこともある。
気付きたくない他人の気持ちに出会うこともたくさんある。
でも、その問いの答えの先にある想いが
伝えるではなく、伝えたいに変わったとき
新たに「私だけの」言葉が生まれる。
言葉を磨きたければ、自分の想いを育てることだ。
伝えるのではなく伝わってしまうのだ。
営業で学んできたことは、自分の気持ちをさらけ出してぶつけることの大切さかもしれない。それが借りてきた言葉ではなく、自分の想いで語ることが出来た時に、伝えたい思いが相手に伝わるということだ。
少しずつ出来るようになってきたものの、身近な人にさらけ出すのはまだまだ苦手な私だ。
でも、もがいた先のすがすがしさが、人を強くさせることも知っている。
私は、そんな遠回りだけど人間臭く、弱く、でも正直に、そんな人生を歩みたい。そして、そんな想いを共感できる人と共に時を重ねる人生を送りたい。
自分の想いを拾ってあげて、受け止めてあげようと思う。
私の周りには、きっと受け止めてくれる人がたくさんいる。