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ニッチャーは『平均台』で高得点を狙う

[要旨]

ニッチャーは、狭い限られた市場で勝負をしますが、それを体操競技にたとえると、平均台で高得点を狙うような経営をしなければなりません。すなわち、狭い市場に注力することで、他社の参入が難しくなり、自社にとって優位に競争をすることができるからです。こうすることで、自社の収益を高めることができるようになります。

[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの遠藤功さんのご著書、「経営戦略の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べます。前回は、かつて、アサヒビールは、シェアが10%を割り込にそうになるほど業績が落ち込んでいましたが、新商品のスーパードライを開発し販売することでシェアを高め、業界トップのキリンを追い抜くまで成長し、そのことによって、市場も活性化し、同社だけでなく、業界全体も発展させることにつながたということについて説明しました。

これに続いて、遠藤さんは、ニッチャーの戦略について述べておられます。「『隙間』という狭い、限られた市場で勝負するニッチャーは、体操競技にたとえるなら、『平均台』で高得点を狙うような経営をしなければなりません。細い台から落ちないように、常に緊張感をもって経営することが求められます。そして、この緊張感も、ニッチャーにとっての強みとなります。会社全体が朝から晩まで、経営トップから現場まで、その特化したビジネスのことだけを考えることによって、他者につけ入る余地を与えられないことが肝心です。

そうは言っても、油断は禁物です。ニッチ市場で圧倒的な存在になったとしても、競争相手が参入してくるリスクはあります。例えば、マブチモーターは、小型モーターのニッチャーとして、高収益を上げる企業でた。小型モーターの中でも、『直流で芯(コア)があり、ブラシつき』という、さらに特価した製品で、独自の強みを構築し、分野によっては世界シェアの7割近くを確保していました。しかし、そこに中国の新興メーカーが参戦。

一気に価格競争となり、シェアも収益も大きく低下させてしまいました。こうしたリスクにどのように対応したらよいのでしょう?体操競技の『平均台』は長さが決まっていて、その長さ以上、先には行けません。また、マブチが経験したように、誰も乗ってこないと思っていたその『平均台』に、競争相手が乗ってくることも想定しなくてはなりません。ニッチャーが安定した経営を実現するには、複数の『平均台』を持つことが必要です。

ひとつの『平均台』にしがみつくのではなく、圧倒的な存在を誇る複数の『平均台』を確保することで、高収益を犠牲にすることなく、企業としての安定的な成長を実現することも可能になります。そのお手本と呼べる企業が日東電工です。同社は電気絶縁材料からスタートした会社ですが、今では電子素材や自動車製品、工業製品など、幅広い分野で『グローバルニッチ』を標榜し、数多くの製品で世界最大のシェアを確保しています」(115ページ)

遠藤さんも述べられている通り、ニッチとは隙間という意味ですが、遠藤さんは、あえてそれを平均台に例えています。ニッチ市場からはみ出てはいけないという観点からは、隙間にたとえるよりも、平均台の方がイメージしやすいかもしれません。そして、経営資源の少ない中小企業は、選択の余地なく、ニッチ市場で事業展開をするしかありません。とはいえ、経営者としては、狭い市場で戦うということは、その市場にいる顧客も少なくなるので、市場を絞ることに躊躇してしまうようです。

しかし、絶対的な顧客の多寡に注目するのではなく、需要が供給を上回れば、その市場でイニシアティブを握ることができるようになると考えれば、ニッチ市場で事業展開することが妥当であると理解できるようになるでしょう。そして、ニッチな製品を製造している会社の事例はたくさんあるのですが、ひとつ例をあげるとすれば、私は、東京都台東区にあるホワイトローズという会社を思い浮かべます。

同社では、1万円前後の価格のビニール傘の売上が、1年で、8,000万円~1憶円あるそうです。これに対し、同社の正社員は2名、パート社員は7名ということなので、1億円という売上は決して多くありませんが、従業員数から勘案すれば、採算は得られているようです。また、高級ビニール傘の需要は絶対的には大きくはないですが、だからこそ他社は進出しようとは考えないため、高級ビニール傘市場は、同社にとってはブルーオーシャンになっていると考えることができます。

2024/3/27 No.2660

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