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[要旨]

公認会計士の安本隆晴さんは、滞留在庫を作らず、在庫切れも起こさないようにすることは簡単なことではありませんが、至難の業でもないとご指摘しておられます。すなわち、在庫が発生している、それぞれの過程で数字化して、その数字の変化を観察し、素早く行動を起こすことは容易に実践することができ、効果も得られるということです。

[本文]

今回も、公認会計士の安本隆晴さんのご著書、「ユニクロ監査役が書いた強い会社をつくる会計の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、会社の損益計算書は、業種によって費用の構成が異なるため、従業員1人当たりの給与を得るために必要な売上高も異なることから、従業員1人当たり損益計算書を従業員に示すことによって、自分の給与を得るために必要な売上高の根拠を示すことができ、これによって、従業員に、より能動的な活動を促すことができるようになるということについて説明しました。

これに続いて、安本さんは、資金繰を円滑にするために、在庫管理が重要であるということを述べておられます。「常に滞留在庫(中略)を作らず、在庫切れも起こさないようにするのは、簡単なことではありませんが、至難の業でもありません。メーカーの場合は、ある製品を大量生産するに際して、初回から大量に作ると失敗することがあるので、まずは半分だけ作って売れ行きを見ながら追加生産するという方式を採ります。売れ行きについては、商社や問屋に売れたものだけでなく、その先の小売店での売れ行きも観察しなければなりません。小売店での売れ行きが芳しくないと、返品されて戻ってきます。(中略)

商品を仕入販売する小売業の場合は、在庫といっても、店頭にある在庫、倉庫にある在庫、移動中の在庫、メーカーへの発注残高と4種類あり、これらを合計した『総在庫』を、売れ行きとのバランスを見ながら管理します。これを『製販バランス管理』と言います。週次ベースで製販バランスを見ながら、追加発注するか、今後の発注をやめるか、値引きして売り切るか、アウトレットに回すか、売れ残ったら次のシーズンまでキャリーするかを決めます。

要するに、在庫が発生している、それぞれの過程で数字化して、その数字の変化を観察し、素早く行動を起こすわけです。努力した結果、やむを得ず、滞留在庫が決算期末近くまで残ってしまった場合は、翌期に売れる値段まで評価減する(簿価を切り下げる)か、廃棄処分するかを決め、廃棄処分するのであれば、期末日までに実施します。評価減は、税務上、損金として認められないことが多く、有税になりますが、売れなかった責任を果たす意味でも、腹をくくって早めに決断すべきです」

融資を受けている会社が、不要な在庫を減らせば、その金額相当額の融資額を減らすこともできるので、資金調達に苦心している会社は、その労力を、在庫減少に振り向けることも、資金繰を円滑にする有効な方法だと思います。とはいえ、在庫管理は、事前に正解を予測することが難しいという面もあります。例えば、用心して、少しだけ仕入れた商品が、実は、たくさんの引き合いが来て品切れとなり、ビジネスチャンスを逃すこともあれば、たくさん売れる自身があり、多めの仕入れをしたにもかかわらず、あまり売れなかったということもあります。

そこで、経営者の方としては、労力を注ぐことに積極的になれないと考えてしまうことも理解できます。でも、100点をとれないからといって、在庫管理をしないでいるよりも、在庫管理をしているからこそ、果敢な決断もできるようになると、私は考えています。むしろ、在庫管理をせずに事業活動を続けていることの方が、収益意識を薄めてしまい、事業活動に悪い影響を与えてしまうのではないでしょうか?

2024/1/12 No.2585

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