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共同創業の多くは経営者同士が揉める

[要旨]

コンサルタントの徳谷智史さんによれば、2人で共同創業をすると、十中八九ケンカ別れするそうです。それは、起業後の黎明期は、何をやってもうまくいかないことが多く、お互いに、その原因は相手にあると考えるようになってしまうからだそうです。したがって、共同創業は避けるか、もし、共同創業する場合は、あらかじめ、どちらかが主導権を握ることを決めておくことが無難と言えます。

[本文]

今回も、前回に引き続き、徳谷智史さんのご著書、「経営中毒-社長はつらい、だから楽しい」を読み、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、業績が順調なときは、銀行から融資の営業を受けることがありますが、業績が悪化したとたんに、手のひらを返すように内諾していた融資を取り消されたりすることがあるので、銀行とは苦しいときにお金を貸して欲しいと頼るだけではなく、仮に順調であっても、円満な関係を築いておくことが大切ということについて説明しました。

これに続いて、徳谷さんは、スタートアップの多くは、経営メンバーの間で揉めごとが起きるということについて述べておられます。「経営メンバーは、何が原因で揉めるのか。一番の原因は、会社の舵の取り方、つまり意思決定をめぐるケンカです。とりわけ、スタートアップが立ち上げるビジネスは、これまで誰もしたことがない事業がほとんどです。『こっちに行けば正解』という答えが誰にもわかりません。だから、すんなり意思決定てきることは、ほとんどないのです。『俺はこっちだと思う』、『いや、私はこういうふうにすべきだと思う』と、さんざん意見を戦わせた末に、『これで行こう』と意思決定をするものです。

もちろん、その意思決定がすべて的中し、順風満帆であればよいのですが、そんなことはまずありえない。いや、どっちに行ってもうまくいかないことの方が多いですから、『予想よりもユーザーからの反響がすくない』、『開発が計画通りすすまない』、『資金が調達できない』といった事態に直面するのが常です。とはいえ、最初のうちは、一緒に乗り越えて行こうとするものです。しかし、想像してみてください。その意思決定によってあまりにもうまくいかないことが日常化し続ける。すると、どこかのタイミングから、『揉め事』に発展します。

合議で決めたのに、『この意思決定が信用ならない』、『そもそも、何か根本的に考え方が違う』と、責任の押し付け合いが始まるのです。2人で対等に経営する共同経営の場合、どちらかが意思決定をしてうまくいかないことが続くと、もう片方から不満が出てきます。本当は、自分が決めた方がうまくいくと思っている人も、もう1人に意思決定を任せた方がいいと考えている人も、結果が出ないままだと、『ダメじゃないか』と不満を持ちます。私の体感では、2人で共同創業をすると、十中八九ケンカ別れします。これは、どちらが悪いというのではありません。スタートアップを起業し、同じ志で続けていくというのは、それだけ難しいことなのです」88ページ)

共同創業した会社の経営者同士が揉める事例は、私もたくさん見てきました。これについては、なぜ、そうなってしまうのかと考えるよりも、そのようなものだと考えるべきだと、私は感じています。しかしながら、共同創業する会社は決して少なくありません。それは、「1人で創業するよりも、2人で創業する方が、それぞれの得意分野を活かして、相乗効果が得られる」という表向きの理由のほかに、内心では、「もし、自分のやり方でうまくいかないことがあっても、パートナーに助けてもらえる」という依存的な理由があるからだと思います。

しかしながら、現実的には、徳谷さんがご指摘しておられるように、スタートアップは向かい風の中で活動するため、うまくいかないことが続き、その責任をお互いに押し付け合うことで揉めてしまうのでしょう。それでは、どうすればよいかというと、元も子もないのですが、共同創業はしてはいけないということだと思います。それでも、2人で創業したいというときは、あらかじめ、主導権を持つ人を決めておくべきだと思います。例えば、本田技研工業の本田宗一郎さんと藤沢武夫さんの関係がよい事例だと思います。

藤沢さんの同社に対する貢献度は大きいということは広く知られていますが、藤沢さんは、表舞台に立つ本田さんの裏方に徹していました。それは、藤沢さんの美学ともいえる価値観によるものですが、共同創業者するときに、本田さんと藤沢さんのような関係を持てない場合は、共同で創業することは避けることが無難だと思います。もちろん、創業しようとする人は、必ずしも、藤沢さんのような価値観を持たなければならないということではなく、自分の意見を経営に反映させることに価値を感じる方同士で共同創業すれば、徳谷さんがご指摘するように、創業後に高い確率で会社が空中分解してしまうということです。

2024/9/20 No.2837

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