意思決定の先延ばしは業績を悪化させる
[要旨]
コンサルタントの徳谷智史さんによれば、会社経営者は、常に意思決定をしなければならず、さらに、その結果は社内外に大きなインパクトを与えます。そこで、意思決定することを躊躇する経営者も少なくありませんが、意思決定を先延ばしにすることの方が事業に与える損失が大きくなることから、失敗を恐れず、迅速な意思決定を繰り返すことによって、その精度を高めていくことが大切ということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、徳谷智史さんのご著書、「経営中毒-社長はつらい、だから楽しい」を読み、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、徳谷さんによれば、大企業が新たなプロダクトを開発するときの基本的な考え方は、多くのユーザーを獲得できるようなモノを見つけ出すことだそうですが、スタートアップは、大企業のように資金が潤沢ではないので、スタートアップに欠かせない考え方は、たった一人でも「熱狂的なコアユーザーを見つけ出すこと」であり、そのユーザーからの評価を広めてもらい、顧客を増やして行くことだということについて説明しました。
これに続いて、徳谷さんは、経営者は意思決定を先延ばしにしてはいけないということについて述べておられます。「世の中のすべての社長は、ほぼ毎日、意思決定の場面に直面していると言っても過言ではありません。社長が迫られる意思決定は、とりわけ、社内外に与えるインパクトが大きいことばかりです。全員が目指しているビジョンを達成するためには、リスクや失点を防ぐ『守りのアプローチ』だけではダメで、次の成長に向けた『攻めのアプローチ』が欠かせません。
そのため、どうしても社長の意思決定には、失敗のリスクも伴います。さらに、スタートアップの場合だと、そもそも誰もしたことがないビジネスを手がけていることも多いですから、何が正解なのかは、社長も含めて誰にもわかりません。そのため、どんな社長も意思決定するのに躊躇するのは無理のないことでしょう。しかし、意思決定をいたずらに先延ばしにしても、良いことはほとんどありません。
新しく立ち上げた事業がこのままでは厳しい、とうすうす感じているものの、ここまで投資をしてきたから期待したい、頑張ってきた社員の目もある、社外関係者への説明責任もある、だから、とりあえず思い切った意思決定は先延ばしにして事業は続けよう……。その結果として、傷口が広がって、損失が著しく膨らんでしまう。このような例は数知れません。
あるいは、事業のテコ入れのために、幹部候補の中途採用を検討したものの、『他にもいい人がいるかもしれない』と思って決断を先延ばしにしていたら、他社に取られてしまったというケースもあります。『もうちょっと早く意思決定しておけば……』と後悔しても、時すでに遅しなのです。そう考えると、失敗を恐れず、速やかに意思決定をすることが鉄則と言えるでしょう。名だたる社長も、最初から正しい意思決定がスピーディにできたわけではありません。後悔と葛藤を繰り返しながら、意思決定の質やスピードを少しずつ高めているものです」(324ページ)
明確な根拠を示すことはできないのですが、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、社長が意思決定を避けようとする傾向にある会社ほど、業績が不振という傾向にあります。その要因は、意思決定の結果が仮に失敗であったとしても、意思決定をしなかったときよりも気づきを得ることができ、成功に近づくことができるからだと考えることができます。これは、よく、「失敗は成功の母」とか、「打席に立たなければヒットは打てない」などと言われることからも、容易に理解することができると思います。
そして、このことは、ほとんどの方は、頭では理解しているものの、一部の方は、心の深いところでは失敗することを避けたいと考え、意思決定を避けてしまうのだと思います。これについては、感情の問題なので、理論で改善を促すことは難しいです。しかし、あえて意思決定ができるようになる考え方を示すと、その1つは、仮に、意思決定をしなかったとしても、責任を逃れることはできないと考えることだと思います。
すなわち、仮に、意思決定をしなかったとしても、それは、意思決定をしないことを意思決定したのであって、その結果の責任は逃れられません。そうであれば、前向きに意思決定をすることの方が成功する確率は高くなるし、また、仮に失敗したとしても、精神的に受ける衝撃は小さくなると思います。もう一つは、管理会計を導入することです。すなわち、客観的な判断材料を揃えることです。これがあれば、意思決定の精度は高くなり、意思決定もしやすくなります。
ただ、意思決定のための資料を揃えることは、ある程度の労力が必要なので、それを避けようとする経営者の方も少なくありません。でも、これはこれまで何度も述べてきましたが、管理会計を導入せずに、勘で意思決定をすれば、精度は低くなり、却って多くの労力を必要とすることになります。したがって、管理会計の導入は、事業の改善を促す大きな鍵になると言えます。
2024/10/4 No.2851