融資は受けない方がよいのか(3)
[要旨]
資金不足の要因は、主に、収支ずれと不採算取引の2つがあります。前者は、通常の事業活動で自ずと解消しますが、後者は、取引条件などを改善しなければ、いつまでも解消しません。そこで、毎月、資金管理と収益管理を行っていれば、事業活動を安定化させることができるので、融資を受けることへの懸念もなくなっていくでしょう。
[本文]
今回は、前回の、「融資は受けた方がよいか」という質問への回答の続きを説明します。前回は、融資を受けることに消極的な経営者は、リスクを大きくしないようにしたいと考えていることがその要因のひとつのようですが、そもそも、ビジネスはリスクに挑む活動でもあることから、リスクマネジメントについてしっかりと学び、果敢にビジネスに挑むことが望ましいということについて説明しました。では、なぜ、ビジネスに挑もうとしていながら、一方で、融資を受けることには消極的な経営者がいるのかというと、私は、そのような経営者は、会計に関する知識があまり多くないからではないかと思っています。
これは、当たり前すぎる理由と言える理由だと思います。したがって、融資に否定的な経営者の方は、初歩的な知識を身に付けるだけでも、融資を肯定的に考えることができるようになると思います。では、会計についてどのような知識が必要になるのかというと、これはあまりにも膨大な量になるので、今回は、資金分足に関する原因について説明したいと思います。事業活動で資金不足が起きる要因は、大きく2つあります。そのひとつは、資金収支のずれによるもので、もうひとつは、不採算取引によるものです。
まず、資金収支のずれとは、売上代金の回収よりも、仕入代金の支払いや経費の支払いを先に行わなければならないときに起きるものです。例えば、商品を販売し、その代金は翌々月末日に受け取るという条件で取引をしている会社が、一方で、商品の仕入代金は仕入れた月の翌月という場合、売上代金の受け取りより前に、仕入代金を支払わなければならないので、資金不足が起きてしまいます。ただし、このような資金不足は、売上代金の受け取りによって、短期間で解消が見込まれます。
次に、不採算取引による資金不足は、例えば、他社との競合が激しいために、販売価格が仕入価格より低い条件でなければ販売できない場合、または、販売価格が仕入価格とほぼ変わらず、経費を転嫁できない場合などに起きます。これは、受け取る金額が支払う金額より少ないので、当然に起きる資金不足ですが、将来、利益が得られるまで解消しません。繰り返しになりますが、収支ずれによる資金不足は、自ずと解消するのに対し、不採算取引による資金不足は、放置しておいても解消しません。
したがって、不採算取引はいち早く早く発見し、何らかの対処をしなければ、その資金不足はどんどん大きくなってしまいます。そして、この2つの資金不足の要因は容易に理解できるものですが、会計があまり得意でない経営者の方は、資金不足が起きていることは把握できても、その原因が何なのかが分からないということが多いようです。その理由についてもさまざまですが、最も大きな理由は、毎月、利益額や、収支ずれを確認していないということが挙げられます。
例えば、毎月、利益額を確認していない会社では、経営者の方が、頻繁に受注が来るので利益が得られていると考えていたところ、決算書が作成されてから、実は、自社が赤字になっていたことがわかったということは珍しくありません。その結果、銀行から追加の融資を渋られ、資金繰りが行き詰まって倒産し、経営者が自己破産せざるを得なくなるという場合も出てきます。そこで、経営者の方が、もし、毎月、利益額の管理をしていれば、事業を継続させることは容易になり、融資の返済ができなくなるということは起きないと、私は考えています。
このような資金管理は、慣れないうちは労力がかかると感じるかもしれませんが、経営者にとっては必須の役割と言えます。そして、繰り返しになりますが、このような管理を行っていれば、「融資を受けることは避けた方がよい」という否定的な考え方はしなくなるのではないかと思います。ところで、近年、キャッシュフローを管理することが大切と強調する専門家が増えていると私は感じています。
とはいえ、キャッシュフローは事業活動を継続させる必須の要素であって、それは、「ガソリンがなければ自動車は走らない」と言われているのと同じであると私は考えていますが、なぜ、改めて協調しているのか、理由がよくわかりません。最近は、Amazonなどが、キャッシュコンバージョンサイクルといった指標でキャッシュフローの効率化に取り組んでいることが注目されていますが、このような取組は中小企業にはあまり向いていないと、私は、考えています。
もちろん、繰り返しになりますが、事業活動を安定させるためにはキャッシュフロー管理(資金管理)は欠かせませんが、それは、決してキャッシュフローだけを管理すればよいということではありません。もし、キャッシュフローだけを管理していれば、前述したように、不採算の取引があることを見逃してしまう可能性もあり、それでは資金不足が長期間解消しない要因になってしまいます。
したがって、事業を継続させるためには、資金不足を発生させないことと、赤字を発生させないことの2つがポイントになります。そして、当初の質問への最終的な回答ですが、融資を受けることそのものはリスクが高まることではなく、資金管理と利益管理を行うことが事業を継続させるために重要であり、この管理ができれば、融資を受けることの懸念は解消できるということが、私からの回答ということです。
2025/1/19 No.2958