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銀行との良好な関係は『切り札』になる

[要旨]

中小企業の中にも、手許資金が潤沢な会社があり、そのような会社は、もし、自社の資金繰が悪化したときに銀行から融資を受ければすむと考えていることもあるようです。しかし、融資取引が初めての場合、業績が悪化した状態では、銀行からは融資を断られる可能性が高くなります。したがって、業績が順調な時から銀行と融資取引を行ない、良好な関係を作っておくことは、ピンチになったときの「切り札」を温存することになると言えます。

[本文]

今回も、前回に引き続き、税理士の児玉尚彦さんのご著書、「会社のお金はどこへ消えた?-“キャッシュバランス・フロー”でお金を呼び込む59の鉄則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、会社が融資を受ることが倒産の原因ではないにもかかわらず、融資を受けると倒産すると考えている経営者がいるという、野口さんのご指摘を紹介しました。これに続き、野口さんは、中小企業が銀行から融資を受けないことで、リスクが増加するとご指摘しておられます。

「中小企業の中にも、借金をしなくても数年間は十分経営してけるだけのお金を蓄えている会社はあります。しかし、その後もお金に困らずにやっていける保証は、どこにもありません。ちょっと成功したくらいの蓄えでは、ビジネス環境が変わったら、すぐに底をついてしまいます。お金はいったん減り出すと、本当に怖いくらいのスピードで消えていくのを、いろいろな会社で見てきました。業績が落ちてきても、すぐにリストラできるわけではないからです。このとき、無借金でやっている会社は怖いのです。本当にお金に困ったら、銀行から借りればいいと考えているからです。

しかし、銀行から借入をしならくしていない会社は、銀行にとっては新規扱いです。業績が悪化している新規の融資案件は敬遠され、必要な金額は到底借りることができません。会社を継続していこうという意思がある限り、資金調達の選択肢は可能な限り、たくさん持っているのが有効です。それなのに、借金という切り札を、自ら捨ててしまうのは、会社経営を、あえて、難しくしているようなものです。そういう意味で、中小企業の社長が、事業を成功させる前から、無借金経営を口にするのは、これ以上の事業の成長を諦めているように聞こえてしまうのです」(172ページ)

中小企業経営者の方の中には、銀行を信用できないと考えている方もいるようです。それは、「銀行は、晴れた時に傘を貸そうとするけれど、逆に、土砂降りの時には傘を取り上げる」と言われているからだと思います。確かに、銀行が融資相手の会社に対して、手の平を反すようなことをすることがあるのは事実だと思います。しかし、それは部分的であり、基本的には、銀行は、融資相手の会社に対して支援を可能な限り行おうとするでしょう。また、融資を断られた会社の中にも、野口さんが述べておられるように、日ごろから銀行と綿密なコミュニケーションを確保していれば、融資を断られなかったということもあると思います。

もうひとつ付け加えたいことは、自社がピンチになったときに手の平を返すのは、銀行だけではありません。会社の信用が悪くなると、仕入れ先も材料や商品を仕入れを渋ったり、代金の回収を早めたりしようとします。顧客からも、継続的な取引が難しそうだと思われると、商品の購入を渋られることもあります。したがって、野口さんもご指摘しておられるように、自社がピンチになったときに備えて、順調な時から銀行と良好な関係を作っておく、すなわち「切り札」を作っておくことが賢明だと、私も考えています。

2022/12/27 No.2204

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