目標や夢を持つことで道が開ける
[要旨]
アルミ加工メーカーのヒルトップの相談役の山本昌作さんは、かつては、単純作業の多い仕事をしていましたが、その後、一念発起して、「白衣を着て働く工場」を実現しようという理想を実現しようと考えた結果、それが実現できたということです。よく、自分の会社は下請けから脱することは難しいと、自分で天井を決めている経営者がいますが、そのように考えている限り、下請けを抜け出すことはできないということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、アルミ加工メーカーのHILLTOP株式会社の相談役の山本昌作さんのご著書、「ディズニー、NASAが認めた遊ぶ鉄工所」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、山本さんによれば、多くの会社は自社の事業領域を限定してしまいがちですが、自社の事業領域の周辺にビジネスチャンスが隠れていることがあるので、自社の事業領域にこだわらず、柔軟に事業領域を広げることが大切だということについて説明しました。
これに続いて、山本さんは、自分の理想を実現しよとするときは、想いの強さが鍵になるということについて述べておられます。「ヒルトップの工場見学を終えた同業者のA社長から、自嘲ぎみにこんなことを言われたことがあります。『立派な本社ビルと、“ヒルトップ・システム”(同社独自の生産管理システム)があれば、そりゃあ、多品種・単品・24時間無人加工だって実現できますよね。やりたいこともできるでしょう。うちのように社員が10人しかいない小さな会社には、どだい無理な話です』この社長は、大きな勘違いをしています。
本社ビルと『ヒルトップ・システム』があるから、『脱量産・脱下請・脱肉体労働』を実現できたのではありません。順番が『逆』。『夢工場をつくるぞ!』、『白衣を着て働く工場にしてみせるぞ!』と夢を持ち続けたからこそ、本社ビルと『ヒルトップ・システム』を完成できたのです。この社長と私に違いがあるとしたら、それは『想いの強さ』だけかもしれません。A社長がいつまでも下請から脱却できないのは、『しょせん下請の町工場は、油まみれになって機械を動かすしかない』と自分の天井を決めているからです。
『無理だ』と思っている限り、絶対に『無理』。『無理だ』と思うと視野が狭くなり、新たな可能性やビジネスチャンスに気づけなくなる。しかし私には、『無理だ』という概念がありません。人は、目標や夢を持つことで道が開けていきます。私たちの夢は、『丘の上』に立つこと。大企業が富士山なら、うちは丘。ヒルトップという社名には、『アルミ加工の分野で頂点を目指す、絶対にどこにも負けない』という強い想いが込められています」(61ページ)
山本さんが述べておられる「想いの強さ」ですが、これについては多くの経営者の方も同様のことを述べておられます。例えば、かつて、京セラを創業して間もない頃の稲盛和夫さんは、松下幸之助さんの講演を聴きにいったとき、松下さんが「景気がよくて経営に余裕のある時に、景気が悪くなった時に備えて、経営資源を蓄えておくというダム式経営を実践することが大切だ」と述べたそうです。
これに対し、ある経営者から、「どうすればダムをつくれるのか、その方法を教えて欲しい」と質問があったそうです。そこで、松下さんは、「それは自分にもわからないけれど、ダムをつくろうと思うことが大切だ」と回答したそうです。この松下さんの回答に対し、多くの経営者は松下さんの回答に落胆したそうですが、稲盛さんは頭に衝撃が走り、「目標を達成しようという強い志が大切なのだ」と考えたそうです。
そして、山本さんや松下さんが述べておられる「強い意志が大切」ということは、繰り返しになりますが、多くの成功した経営者の方が述べておられるし、また、ほとんどの方がご理解できるご指摘だと思います。ところが、強い意志を持つことは、実際にはなかなか難しいようです。そこで、私がコンサルティングを行うときには、顧問先の経営者の想いを実現するための活動を継続して実践できるよう、働きかけを行っています。
その方法はひとつだけではありませんが、私は、まず、5年後の会社の状態をイメージしてもらいます。そして、それを達成するための道筋を、1年ごとに明確にしてらいます。さらに、現在から1年後の状態にするための道筋を、12か月分、明確にしてもらいます。さらに、現在から1か月後の状態にするために、今週、今日、何をするかを明確にしてもらいます。これは目標の細分化という手法です。繰り返しになりますが、目標の細分化だけが目標を達成する手法ではありません。
でも、成行的に日々を過ごすよりも、細分化した目標を目指して活動していく方が、確実に理想に近づくことは間違いないと言えるでしょう。実のところ、このような私の提案を否定的に捉える経営者の方は少なくありません、というよりも、そういう経営者の方の方が多いと、私は感じています。もちろん、生まれながらに優れた才能を持っているために、若くして成功している経営者はたくさんいます。そのような経営者は、私が提案するような地味な活動は不要です。
ただ、そういう才能の溢れる経営者は、数は少なくありませんが、割合としては極めて低い存在です。世の中は、圧倒的に「普通の人」(私自身も含まれます)ばかりです。でも、普通の人でも強い志を持てば、才能のある成功者に近づくことができるでしょう。逆に、どんくさい方法はばかばかしいと考えている方が、もし、普通の人だったら、その人はいつまでも普通の人のままになることは言うまでもありません。
2025/1/22 No.2961