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上と下の論『理』を双方に通す『管』

[要旨]

ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんによれば、経営者の考え(現場にやって欲しいこと)と、現場の思い(現場のやりたいこと)とはすれ違うものですが、このすれ違いは健全な議論を経ることで埋めることができるそうです。そこで、ミドルマネジメント層が、部下と同じ目線で困難な目標に共感し、上位者の視点でその困難にチャレンジする意義を、部下に熱く伝えて上下の意思疎通を図る役割を果たすことが重要だということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんのご著書、「伝説のプロ経営者が教える30歳からのリーダーの教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、新さんによれば、ドラッカーが、「意図で山は動かない、山を動かすのはブルドーザーである」という例え話で示しているように、理念や目標だけでは、組織(山)を動かすことはできず、そのためには戦略(ブルドーザー)も必要になるということについて説明しました。

これに続いて、新さんは、経営者層と事業活動の現場に携わる人の間での意見の擦り合わせが行われることが大切ということについて述べておられます。「そもそも経営者の考え(現場にやって欲しいこと)と、現場の思い(現場のやりたいこと)とはすれ違うものである。このすれ違いを埋めていくには健全な議論を経るしかない。それにより溝を埋めることができる。経営者がどんなに呻吟(しんぎん)した挙句に立案した目標であったとしても、あるいは、現場が現状と現状をもとに、徹底的に練り抜いた目標であったとしても、これが絶対正しいという目標はない。(中略)

絶対は無理でも、上下の相対的な落とし所をねらう。これが健全な議論の前提である。したがって、どこまで行っても平行線という議論をしてはならない。お互いに落とし所という譲歩の余地を持って臨むのが健全な議論のルールである。管理者とは、上(経営者)と下(現場)の考え方や論『理』を双方に通わせる『管』(パイプ)の役割を果たす人である。それゆえに管理者というのである。管理が機能していない会社は、コミュニケーションの水はけが悪くなる。

部下と同じ目線で困難な目標に共感し、上位者の視点でその困難にチャレンジする意義を、部下に熱く伝えて上下の意思疎通を図ることが、リーダーという名の管理者の果たすべき役割である。必要に応じて部下を説得するのはもちろんだが、場合によっては上を説得することもリーダーの仕事だ。上下を説得するためには、理念、戦略の共有が大前提となる。戦略の目的を深く正しく理解していれば、戦略を遂行しても目標を達成するために必要なことが目に見えてくる。理念なき目標はノルマ化し、目標なき戦略は形骸化する」(91ページ)

新さんがご指摘しておられるように、目標は、経営者が立案したものと、現場の従業員が立案したものの、どちらが正しいかという議論はあまり意味がありません。目標設定は、最終的には経営者の責任と権限で行うものですが、だからといって、現場の意見が反映されなければ、理念のない目標となってしまいます。とはいえ、経営者が現場の意見により過ぎて目標を設定してしまうと、今度は、巨視的視点に立って事業の舵取りをするという経営者の役割を果たせないことになってしまいます。

そこで、「部下と同じ目線で困難な目標に共感し、上位者の視点でその困難にチャレンジする意義を、部下に熱く伝えて上下の意思疎通を図る」というプロセスそのものが大切になると、私は考えています。結果として、同じ目標を設定したことになったとしても、このプロセスを通していなければ、目標の理念が希薄になり、事業活動の効率は下がることになると、私は考えています。米国の組織論の大家のバーナードが、組織の3要素として、共通目的、貢献意欲、そしてコミュニケーションを挙げています。

新さんも、「管理が機能していない会社は、コミュニケーションの水はけが悪くなる」とご指摘しておられるように、コミュニケーションを重視しておられますが、それは、コミュニケーションが維持されなければ、組織が活性化されず、効率の高い活動を期待できません。しかし、問題なのは、このコミュニケーションの重要性はほとんどの方に理解してもらえるものの、現実には、それが十分に確保されている会社は少ないようです。新さんも、同書の別のところで、「現実には、すり合わせ型のプロセスで目標が設定されている企業は多くない、5%というのが私の体験的実感である」と述べておられます。

コミュニケーションがあまり確保されない要因として考えられることは、日々の目の前の業務をこなすことに時間がとられ、コミュニケーションの機会を設けることが困難ということだと思います。しかし、これは私自身にも言えることですが、それは表向きの理由であって、コミュニケーションの優先順位を目の前の業務より低くしているだけなのだと思います。最終的に、経営者、従業員の意識を変えることで、コミュニケーションは確保されるのではないでしょうか?

ちなみに、ドン・キホーテ(厳密には、同社の持株会社のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)の経営理念集である「源流」には、「部下の真摯な意見や主張、あるいは懇願等に聞く耳を持たず、部下の話を途中で遮り、一方的なやり方や命令を押し通そうとするだけの上司は、そもそも権限委譲を旨とする当社の上司たる資格はない」と書かれているそうです。業績のよい会社は、コミュニケーションを重視している証左だと思います。

2024/10/20 No.2867

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