顧客5千社のうち1年で2千社が流出
[要旨]
ある雑誌社は、年間購読社数が約5千社ありますが、そのうち、約2千社が流失していたそうです。これを、コンサルタントに分析してもらうまでは気づかなかったことから、その後、既存顧客の流出にも対策を講じるようにしたそうです。このように、経営者の価値観や肌感覚だけでマーケティング活動を行うことは必ずしも効率的とは言えないので、自社の売上の分析を行うことは欠かせません。
[本文]
今回も、前回に引き続き、中小企業診断士の佐藤義典先生のご著書、「図解実戦マーケティング戦略」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。佐藤先生は、売上を増加させるためには、新規顧客獲得と同時に、流出する顧客を減少させることも重要であるとご説明しておられます。「私がコンサルティングをした、ある雑誌社は、定期購読している法人顧客に情報誌を送っていました。ある年、購読社数が、4,700から5,000に伸びました。
経営陣は、その結果に満足してはいましたが、さらに売上を伸ばしたいということで、私がお手伝いすることになりました。顧客データをざっと見ると、顧客が相当入れ替わっているようでしたので、まずは、『水漏れ分析』を行いました。前年の購読社数は増加したものの、その内訳は、年間新規顧客2,300社、年間流出顧客2,000社、維持顧客2,700社と、前年と比べて大幅に顧客が入れ替わっていたのです。(中略)
この会社は、それ以来、流出防止に人と予算をつぎこむようになったことは言うまでもありません。営業組織において、『新規獲得した営業担当者には、拍手・ボーナス・名声が送られるが、既存顧客を維持しても、見返りがないばかりか、仕事が増えて損するだけ』というケースが多く見られます。すると、既存顧客のケアが手薄になり、既存顧客がどんどん流出していきます。営業スタッフを、新規顧客獲得だけで評価すると、当然そうなります。顧客の維持も、結構、たいへんな仕事であり、常に高いサービスレベルを維持していないと、顧客が流出してしまいます」(191ページ)
この会社の事例を見ると、1年で約40%の顧客が流出しているのに、外部コンサルタントが指摘するまで、経営者の方はそれに気づかなかったのかと、疑問に感じる方も多いと思います。しかし、私もこのような事例は、決して少なくないと感じています。その大きな理由のひとつは、会社への貢献は、新規顧客を取ることだけであると思い込んでいる経営者の方が少なくないということです。むしろ、新規顧客をとること以外は意味がないと考えている経営者の方も珍しくありません。
本当にそういう経営者の方がいるのかと考える方も多いと思いますが、経営者の方がいわゆる営業畑のキャリアが長いと、新規顧客獲得をとることが生きがいであり、それだけを実践してさえいれば、会社はもうかると考えているのです。そして、もうひとつの理由は、数値面での管理を実施している経営者の方が少ないということです。数値面での管理を実施していない経営者の方は、会計が苦手という面もあると思いますが、肌感覚で新規顧客が得られているから会社はもうかっているはずであり、いちいち細かい数値は確認する必要がないと考えているようです。
ここまで、私は、数値管理をしていない経営者の方にたいして厳しく批判をしましたが、実は、ある程度は仕方がない面もあると考えています。というのは、中小企業経営者は、経営者として事業活動の管理をすることよりも、事業活動そのものに携わりたいと考えている方が多いからです。その気持ちも理解できますが、事業活動に振り向けた労力が、より実りあるものにするためにも、数値での管理を行うことは重要です。そこで、会計や数値管理が苦手という経営者の方には、2~3割は、管理活動にも目を向けていただきたいと、私は考えています。
ところで、今回の記事のテーマの、顧客の水漏れ分析ですが、すべての事業にあてはまるとは限りません。例えば、飲食店は、不特定多数の人が顧客ですので、新規、流出を把握することは難しい面があります。ただ、別の面から、売上構造を分析し、改善策を打ち出すことは可能です。したがって、現在は、特にデータを活用していないという経営者の方は、専門家などにご相談をして、数値面での管理の手法などを実施してみるだけでも、売上や利益を大きく変えるきっかけが得られるのではないかと、私は考えています。
2023/2/14 No.2253