経費を極小にするには管理の細分化が鍵
[要旨]
稲盛和夫さんは、京セラの経費の極小化を進めるための手法として、経費の項目を細かく分けて管理したそうです。例えば、かつては、電気代は、工場全体でしか把握で来ませんでしたが、原材料部門、成形部門、焼成部門などに電気メーターを取り付けて、部門ごとに把握できるようにし、正確、かつ、具体的な改善策を打ち出すことができるようにしたそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「京セラフィロソフィ」を拝読して、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、稲盛さんは、京セラを立ち上げてから、「売上を極大に、経費を極小に」という方針で事業活動に臨んでいきましたが、その後、時間当たり採算制度、すなわち、1人1時間当たりの付加価値額を重要な指標として管理するようにすることで、各従業員は自身の給料以上の付加価値を生み出しているかを意識するようになり、また、売上規模が拡大しても、税引前利益率を維持することができるようになったということを説明しました。
これに続いて、稲盛さんは、経費を極小にするためには、経費を細かく管理することが必要であると述べておられます。「経費を極小にするために、私は、さまざまな工夫を凝らしましたが、その1つが、経費項目の細分化です。私は、損益計算書の中の経費項目を、経理の人が普通に使うものよりも、さらに細かく分けていきました。京セラには、セラミックスの形をつくり、次の焼成部門では、それを炉で焼き、また次の部門に持っていく、というふうに、順番に工程が動いています。
こうした場合、原価を見ようとして、例えば、光熱費を調べてみても、普通は、工場全体の光熱費しか出てきません。しかし、それでは、その光熱費が原料部門で使った電気代なのか、成形部門で使ったものなのか、焼成部門で使ったものなのか、あるいは、また次の検査工程で発生した費用なのかということは分かりません。セラミックスの焼成炉は、電気炉ですから、大量の電気を消費しますが、その焼成でどれだけの電気代を使っているのかも、そのままでは把握できないわけです。そういう状態では、いくら、『経費を減らそう』と言っても、何の費用を、どこで、どれくらい減らすのかが、はっきりしません。
『電気代や水道代を少なくしよう』と言ったところで、従業員にしてみると、誰が何をすればいいのか、具体的にはまったくわからないわけです。そこで、少しばかり費用はかかりましたが、原料の部門、成形の部門、焼成の部門と、各部門ごとに電気のメーターをつけていきました。これで、どの部門でどれだけの電気を使っているかが、一目でわかります。すると、例えば、『あなたのところが、焼成炉をつけっぱなしにしているから、今月の電気代は、先月に比べてうんと高くなった。もっと細かく炉の管理をしてください』といえるわけです」(487ページ)
ドラッカーが、「測定できないものは管理できない(厳密には、測定できないものに責任を負うべきではない)」と言ったことは有名です。そこで、かつての京セラのように、どの部門でどれくらいの電力が使われているかが分からなければ、適切な対応策を考え、実施することもできないということは、当然です。このことは、容易に理解できるものの、中小企業の多くでは、経営者の方は、経費(だけでなく、収益も)を細かく管理している方は少数です。では、多くの経営者が、経費を細かく管理しようとしない要因は、まず、会計を苦手にしているからでしょう。すなわち、財務管理そのものに消極的なので、経費を細かく管理できるようにしようとは考えないのでしょう。
本旨からそれますが、経営者の方は、銀行に決算書を提出しているのに、なぜ、自社のことを理解してくれないのだと感じることがあるようですが、それは、決算書を見れば、会社の業況は分かりますが、会社のポテンシャルを探ろうとしても、経費がどのように使われているのかなど、細かい分析ができない状態では、判断が難しい面があるからです。しかし、自分自身では、自社の分析をせずに、顧問税理から受け取った決算書を、そのまま銀行に渡しているような経営者は、銀行が自社を評価しない理由を理解できないのでしょう。
話しを戻すと、多くの経営者が、経費を細かく管理しようとしない要因の2つ目は、経費を把握する仕組みの構築に労力がかかるからです。京セラでも、費用をかけて各部門に電気メーターを取り付けたように、細かい管理をするためには、それなりの労力が求められます。私が、これまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、例えば、経費を細かく管理しようとすると、まず、各部門がそれを記録したり、報告したりするという、新たな労力が発生することになり、会社全体に抵抗が起きます。このようなことがあると、経営者としても、経費の細かい管理の実践を躊躇してしまう要因となります。
3つ目は、管理活動は利益を生まないと考えられがちだからということが挙げられます。特に、外交的な経営者の方は、机に座って数字を集計したり分析したりすることに時間や労力をかけるよりも、直接、顧客と会ったり、生産活動にいそしんだりする方が、利益につながると考えがちです。もちろん、会計データの収集や分析は、直接、利益を生む活動ではありませんが、稲盛さんも述べておられるように、事業活動の改善には欠かせない活動であり、両方を組み合わせることで、競争力や収益力が高まるわけです。繰り返しになりますが、管理に関する活動は、中小企業では避けられがちですが、競争力や収益力を高めるためには重要であるということを、多くの経営者の方に認識していただきたいと思います。
2023/11/20 No.2532