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日本の会社の社長はアクセルを踏まない

[要旨]

冨山和彦さんによれば、欧米におけるガバナンス論は、強い権限を持つCEOが暴走してしまった場合、誰がどうやってブレーキを踏むかということが前提となっているそうです。しかし、日本の会社で起きる問題は、集団の不作為型の暴走や問題先送り型の暴走であって、トップの暴走ではないため、どのようにして社外取締役にトップの暴走を止めるかを議論してもあまり意味はないということです。そこで、日本の会社では、社外取締役に社長が適切にアクセルを踏んでいるかどうかを指摘してもらうようにすることが望ましいと言えるということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、冨山和彦さんのご著書、「結果を出すリーダーはみな非情である」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、冨山さんによれば、多くの日本企業は意思決定と実行が遅いため、アメリカ流の株主主権型やアジア流のオーナー主権型のトップダウンモデルに敗北しており、その要因は、最高意思決定機関である取締役会が、社内の部門の代表者会議になっており、メリハリのない意思決定しか行われないことだということについて説明しました。

これに続いて、冨山さんは、日本の会社のガバナンスは、経営者にアクセルを踏ませることが重要ということについて述べておられます。「欧米におけるガバナンス論は、極めて強力な権力を持った皇帝たる企業トップに君臨するCEOが暴走してしまった場合、誰がどうやってブレーキを踏むか、ということが前提となっている。簡単に言ってしまえば、このブレーキ論に尽きる。会社を破綻に追いやったエンロンも、リーマン・ブラザーズも、みなCEOの暴走が原因だった。

ところが日本のサラリーマン組織で起きる問題は、集団の不作為型の暴走、あるいは、問題先送り型の暴走であって、トップの暴走ではない。(中略)それなのに、日本でも必死にブレーキの議論をしている。日本の企業の多くが採用している監査役制度は、そもそもブレーキ役の制度だし、欧米のように委員会等設置会社を採用して社外取締役を入れる場合も、その社外取締役にブレーキ役を期待している。私が再生にかかわったカネボウもそうであったが、日本の大企業というのは、誰も作為型の暴走はしない。例えで言うと、ブレーキもアクセルもあまり利かない、ハンドルも利かないクルマで、時速20Kmぐらいの超低速でノロノロと進むイメージである。

トップ経営者がひとりで大きくハンドルを切ってよい権限が事実上ないし、思いっきりアクセルを踏んでも、ブレーキを踏んでもいけない。ムラ社会の調和を重んじながら、道の先に何があるかわからないけれども、とりあえず見えるところまで行ってみようとトロトロ走っていく。基本的に共同体の調和を重視する集団というのは、現状維持を目指す。ムラの調和を最優先しながら、スピードを出さず、ハンドルを切らず、ブレーキも踏まず、惰性で進んでいって、その先にいきなり崖があるのかがわかって慌ててブレーキを踏むのだが、時すでに遅しで、崖下に真っ逆さまに落ちていく。

逆に、アメリカのトップは、ひとりで運転を任されていて、乗っているクルマは加速性能もハンドルの切れも抜群にいいスポーツカーである。そんなクルマで暴走されるとたまったものではないから、ブレーキだけはCEOに任せないで、社外取締役に踏ませよう、よく走るぶんよく止まるクルマにして安全を担保しよう、とするのが、アメリカの基本的なガバナンスだ。日本の場合には、よく走らず、よく曲がらないクルマで、しかもトップがひとりで運転できないのだから、単にブレーキだけ強くしたところで意味がないのである」(204ページ)

日本の会社の「暴走」の特徴は、冨山さんがご指摘しておられるように、不作為型です。すなわち、業績よりも、経営者と従業員の調和、すなわち「会社」という「ムラ」の論理が最優先されます。そこで、これも冨山さんがご指摘しておられるように、「単にブレーキだけ強くしたところで意味がない」わけです。本旨からそれますが、日本では社外取締役の役割を誤って理解されている場合が多いように思われます。米国では、強力な権限を持つCEOに対して、社外取締役はブレーキをかける役割をっていますので、ノロノロ運転をしている日本の会社では、ブレーキ役の社外取締役は、本来の意味での出番は多くないようです。

しかし、日本の会社でも、「不作為型」の「不祥事」がたびたび起きているので、社外取締役を就任させれば、それを防ぐことができると考える方も多いようですが、まったく効果がないとは言えないまでも、その役割は、本来の社外取締役の役割ではないので、例えば、不祥事が起きた会社で、「今後、不祥事が起きないよう、社外取締役の数を増やした」という対応は、私は表面を取り繕うだけのことになってしまうと考えています。では、不祥事を防ぐにはどうすればよいのかというと、基本的には、内部統制を忠実に実施することが基本だと思います。

ただ、内部統制の実施は上場会社に義務付けられているにもかかわらず、不祥事を完全に防ぐことができていないため、残念ながら、内部統制が決め手にはなっていないことも現実のようです。しかし、現時点では、内部統制に取り組む意外には対策はないと、私は考えています。話を戻すと、日本の会社で社外取締役がどのような役割を果たすべきかと言えば、社長がアクセルを踏むべきときに踏まない場合、それを指摘することでしょう。

または、「ムラ社会」に属していない「プロ経営者」を外部から招き、社長として経営をしてもらうことだと思います。現在は、経営環境が複雑になっているからこそ、「会社」という「ムラ社会」の一員が出世して「社長」になる場合、勝てる戦略を決断しにくくなっているということは事実だと思います。これを言い換えれば、ガバナンスの良し悪しが業績の差となって現れるということであり、これからは、適切なガバナンスを行うことを目指すことが競争に勝つための重要な要素になっていると言えるでしょう。

2024/8/8 No.2794

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