間接費は作業量による配分が最も適切
[要旨]
ドラッカーは、「今日、総コストの極めて多くの部分が直接費ではない、特定の製品のコストを知るには、コストのうち、膨大な部分が比例配分によって決定されるような数字は役に立たない、明確な焦点のない事業のコストは、作業量による配分が最も現実に近い唯一の計算となる」と述べ、ABC会計(活動基準原価計算)を提唱しました。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの國貞克則さんのご著書、「財務3表一体理解法『管理会計』編」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、國貞さんのかつての顧問先では、競業企業や顧客企業の、幅広く、かつ、ディープな情報を入手し、それに加えて個々の営業担当者の現場の声を拾い上げ、3か月先の販売数量を見通していたそうですが、こうすることで収益機会を逃さず、利益の増加につなげていたということを説明しました。
これに続いて、國貞さんは、ドラッカーがABC会計を提唱したことについて述べておられます。「ドラッカーの管理会計分野における功績は、後に『ABC会計』として発展する事業診断の手法を、『創造する経営者』の中で提唱したことです。(中略)ドラッカーは次のように述べています。『今日、総コストの極めて多くの部分が直接費ではない。(中略)特定の製品のコストを知るには、コストのうち、膨大な部分が比例配分によって決定されるような数字は役に立たない。(中明確な焦点のない事業のコストは、作業量による配分が最も現実に近い唯一の計算となる』
ABC会計とは、“Activity Based Costing”、日本語では『活動基準原価計算』と呼ばれているもので、間接費を各活動に応じて集計して、各製品に配分していく会計手法のことです。今から100年前の産業では、例えば、自動車はT型フォードといわれる1車種が大量に生産されるような時代でした。そのような時代は間接費の配賦もシンプルなもので問題がなかったでしょう。しかし、現代は、多品種少量生産が当たり前になり、製造工程での組み替えも頻繁になりました。さらに、生産活動以外の活動がどんどん増えてきました。
新しい機械装置の頻繁な導入と、それに伴う教育研修、複雑化した生産に関するシステム対応などです。これらの膨大な間接費を、各製品の製造時間といった、一つの配賦基準で配分するのではなく、各活動に応じて集計し、各製品に適切に配分していくのがABC会計なのです。確かに、ABC会計の方が、より、正確に原価を計算できそうです。しかし、ABC会計には課題があります。それは、ABC会計の導入と運営には膨大な労力がかかるという点です。そのため、期待されていたほどには導入が拡がっていないというのが、ABC会計の現実でもあるのです」(48ページ)
國貞さんは、現在のように、製品の原価のうち、間接部門の比重が大きくなってきている場合、ABC会計が適していると述べておられますが、ABC会計は管理会計の考え方です。したがって、財務会計によって作成される財務諸表は、従来の方法で原価が計算されます。そのため、もし、自社でABC会計を導入しようとするときは、従来の原価計算をしなくてもよくなるわけではなく、両方を実施しなければならないということも、ABC会計の導入が拡がらない要因になっていると考えられます。しかし、「今日、総コストの極めて多くの部分が直接費ではない」とドラッカーも述べているように、従来の原価計算では、正しい経営判断が困難になりつつあります。
ではどうすればよいのかというと、これについては、「経営(会計)に王道なし」と考えるしかないと思います。会計が不得手な経営者の方は、まず、従来の原価計算について学び、それを改善活動に活用します。そして、それだけでは物足りなさを感じてきたら、ABC会計を導入するという段階を踏むとよいと思います。これまで何度かお伝えしていますが、経営環境が複雑になってきているわけですので、それに応じて管理活動も複雑になってきています。その管理活動をどれだけ習得できるかに、経営者の能力が問われていると言えるでしょう。
2024/5/3 No.2697