暗黙知のままではナレッジは流出する
[要旨]
会社の事業活動によってナレッジは積み重なり、それが多くなるほど、それは会社の強みになります。しかし、ナレッジは、暗黙知として長年勤めた従業員の頭の中に蓄積されるので、形式知にされないままであると、他の従業員にナレッジが伝えられないままになります。また、ナレッジが共有されないことで、従業員のモラールが低下するので、注意が必要です。
[本文]
先日、経営コンサルタントの田原祐子さんのインタビュー記事がダイヤモンドオンラインに掲載されていました。この記事の中で、田原さんは、会社の暗黙知を形式知にすることの重要性についてお話しておられます。「若手社員の早期退職の理由に、『先輩社員や上司から仕事をきちんと教えてもらえず、その先のキャリアが見いだせない』というものがあります。これは、人材育成の方法が『仕事を実際に見せる』、『まずは経験させる』といったOJTによるものが多いことも原因のひとつです。
一方、ベテラン社員の退職では、『○○さんが辞めたら、業務が滞った』、『状況に見合った判断ができなくなった』という声が上がります。若手社員が育たず、ベテラン社員の“ナレッジ”が流出していく-こうした問題は、実は、“暗黙知を形式知化し、組織で共有しておくこと”に解決の糸口があります。多くの先輩社員が持つ、さまざまな経験によって作り上げられた“知見やノウハウ”-それを誰にでも見えるようにすること、つまり、暗黙知を形式知化することが、新入社員や若手社員をはじめとした人材育成につながります。
しかし、多くの企業ではそれがなされていません。優秀な人材の仕事の手順やノウハウは他者に見えない場合が多く、その人の退職によって、組織の戦力がダウンするのです。欧米の企業は、老舗企業であるほど、暗黙知の形式知化といったナレッジマネジメントを重視しています。たとえば、ボーイング社では、整備士の暗黙知を形式知化し、共有・蓄積・継承しています。航空機の機体は50年保ちますが、人は20歳で就職しても70歳まで第一線では働けません。安全運航には、暗黙知の形式知化が必須で、企業にとっては生命線なのです」
事業活動で得られた「ナレッジ」は、その会社にとっての無形の資産であり、活動年数が長いほどその量も多くなり、そして、それはその会社の強みにもなるということは言うまでもありません。しかし、ナレッジは、多くの場合、従業員の方たちの頭の中に、「暗黙知」の状態で蓄積されますので、それを形式知にしないまま、その従業員の方が退職すれば、せっかく得られたナレッジが失われることになります。さらに、田原さんもご指摘しておられる通り、ナレッジが暗黙知の状態であれば、それを持っている従業員から、経験の浅い他の従業員にそれを伝えることができません。
ただ、このような問題は容易に理解できるものの、暗黙知を形式知にする作業は、ちょっとした労力がかかるため、特に日本の中小企業では、あまり実践されていないようです。しかし、例えば、京都市にある、ミシュランガイド三つ星の料亭の菊乃井では、同店のすべての料理のレシピを、すべての料理人がパソコンで閲覧できるようにしているそうです。
このことによって、料理人の即戦力化を促し、さらに、料理人のモラール向上にもつながっているようです。同店の料理の評価は、料理そのものの味が評価されるわけですが、その味は、ナレッジを共有できることでモラールが向上している料理人に支えられていると考えることができます。年を追うごとに競争力が激しくなっていく時代にあって、こういったナレッジを重視する会社こそ、ライバルとの競争から一歩抜け出すことができるのではないかと、私は考えています。
2023/2/17 No.2256
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