マーケティングは広告宣伝だけではない
[要旨]
日本では、マーケティングについて、広告宣伝のことと理解している経営者の方が多いようです。広告宣伝は、マーケティング活動で重要な位置を占めているものの、広い意味でのマーケティング活動が、首尾一貫して実践され、整合性がとれていなければ、広告宣伝の効果が低くなってしまうということに注意しなければなりません。
[本文]
今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、USPは、顧客からの「なぜあなたから買わなきゃいけないの」という疑問に答える提案であるということについて説明しました。これに続いて、鈴木さんは、マーケティングの大家、フィリップ・コトラーの言葉を通して、日本では、マーケティングに関する理解が浅いという状況についてご説明しておられます。
「コトラーは、2013年に10年ぶりに来日し、東京ビッグサイトに1,000人を集めて講演を行いました。私も、彼を一目見ようと講演を聴きにいったのですが、『日本では、いまだに1P(Promotion)だけがマーケティングだと勘違いしている企業が少なくない』と嘆いていました。その後も、2017年に、『いまだに日本には、マーケティングとは、“15秒の効果的なテレビコマーシャルをつくること”と見なす企業が多いように思える』と書いています。
もちろん、この後説明する管理マーケティングの体系の『R→STP→MM(4P)→I→C』では、販促(Promotion)は4Pのうちのひとつに過ぎません。4Pの中では、最も業務のウェイトが高くなるのが通常ですが、他の3P、さらに前提となるSTPを踏まえておくことは不可欠です。世の中には、広告宣伝を過大に評価し、マーケティングを強化するというので、その具体的な取り組み内容を聴いてみると、広告宣伝を増やすだけというようなこともしばしばです。
広告宣伝は、人件費を除けば、販促費とともに、マーケティング予算の大半を占めることが多く、目立ちやすいこともあり、こうした誤解を招いているのでしょう。広告宣伝は、4Pのうちのひとつである、販促(Promotion)の、さらにその一部にしかすぎません。マーケティングのすべての取り組みが首尾一貫し、整合性がとれていなければ、いくら広告宣伝を増やしてみたところで、砂漠に水を撒くようなことになりかねません。(106ページ)
鈴木さんのご指摘は、日本ではマーケティングとは広告宣伝という狭い意味でしか理解されていないということであり、私もそのように感じています。このような状況になっている理由はひとつだけではないと思いますが、最大の理由は、日本の会社の多くは、プロダクト・アウトの発想になっており、マーケティングの基本的な考え方である、マーケット・インの考え方が浸透していないからだと思います。
これを、別の言い方をすれば、日本では、何を販売するかということが先に決まっている会社がほとんどであり、そのため、マーケティング活動をしようとすると、結果として、販売促進活動だけしか行うことしかできなくなっているのだと思います。もちろん、何を販売するかが先に決まっていたとしても、広い意味でのマーケティング活動は実践できるのですが、経営者の方は、まず、自社の商品を販売することだけにしか労力を注ぐことができず、鈴木さんが示しておられるような、市場調査→STP→マーケティングミックス…といった手順を踏む余地が少ないのだと思います。
では、マーケティング活動のうち、広告宣伝しか行わない会社は成功しないのかというと、現在は、そうなる傾向が高まっているということは、恐らく、多くの経営者の方が気づきつつおられるのではないでしょうか?例えば、日本のホテル業界では、業績が伸び悩んでいる会社が多い中、新興のアパホテルやカンデオホテルが業績を伸ばしているのは、マーケティングを含む、新しい経営の視点を実践している会社が成功しているということの証左だと思います。
2023/3/6 No.2273