見出し画像

自分の強みと時代の流れを把握する

[要旨]

コピーライターの川上徹也さんによれば、かつて、タレントの島田紳助さんが、売れ続ける芸人は、自分の強みと、時代の流れを把握しており、自分の流れに合わせて自分の強みを修正していると述べておられたそうです。この考え方はビジネスにもあてはまり、自社の強みと、外部環境を分析し、外部環境に合わせて自社の強みを発揮できる事業を行うことで、売れ続けることができるようになるということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、コピーライターの川上徹也さんのご著書、「価格、品質、広告で勝負していたら、お金がいくらあっても足りませんよ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、川上さんによれば、起業して10年後に残っている会社は26%しかなく、経営者の多くは失業者予備軍の状態になっているということですが、それでは、経営者が失業者にならないようにするにはどうすればよいかというと、単に、「商品が売れればいい」と考えてしまいがちですが、それは誤りで、「商品が売れ続けなければならない」と考えなければならないということについて説明しました。

これに続いて、川上さんは、「売れる」と「売れ続ける」はどう違うのかということについて述べておられます。「『大ヒットした商品が、なぜ売れたのか?』を分析した書籍は、たくさん出版されています。それを読むのはおもしろいし、なるほどと思うことも多い。でも、そこから何かを学び、自分の商品に応用するという点では、あまり役に立ちません。

大ヒットというのは、大抵の場合、特殊な要素が絡みあっているからです。それを分析するのは、いわば、後出しじゃんけんのようなもの。その方法をあなたがマネしても、大ヒットが生まれることはまずない、と思います。また、大ヒットと呼ばれるブームは、必ずと言っていいほど一過性のものです。ヒット商品を分析した本が、ほんの数年前のものでも随分と古くさい印象になってしまうのはそのためです。

特に、身の丈にも合わず、大ヒットしてしまったものは、ひずみを生じているものの方が多い。長期にわたって生き残るという観点から見れば、大ヒットはむしろ危険だとさえ言えます。一番わかりやすい例は芸能界です。芸能界は一般の社会から比べて、競争や浮き沈みの激しい世界です。その中で、『売れる』こと自体、かなり難しいのですが、それよりもさらに5年、10年と『売れ続ける』ことは至難の業です。例えば、お笑い芸人について考えてみてください。

ここ数年でも、一時期ものすごく売れたけど、最近、あんまりテレビで見ないねって人って何人か思い浮かびますよね。(中略)このような、いわゆる一発屋と呼ばれる方々と、長期にわたって安定してテレビに出続けている人たちとの差はどこにあるのでしょう?その違いをとてもわかりやすい明解な理論で説明している人がいます。20代の頃、『紳助竜介』という漫才コンビで一世を風靡し、その後はバラエティ番組の司会などを中心としたタレントとしてテレビに出続けている島田紳助氏です。

彼は天才的と言ってもいいくらいのマーケターです。タレントとしての仕事以外にもいくつものビジネスを成功させています。(中略)そんな紳助氏が、『売れること』と『売れ続ける』ことの違いを、一度だけ人前で語ったことがあります。(中略)そこでは『XとYの法則』とでも名付けるべき理論が展開されています。要約すると、以下のような内容です。

成功する人間は、努力と才能の掛け合わせた値の大きい人間だ。才能についてはわからないが、努力は方法によって成功する確率は格段に上げられる。しかし、そのためには、『自分の戦力、自分に何ができるか(=X)』と、『時代の流れ(=Y)』を綿密に分析し、準備してから戦わなければならない。そして、売れるためには、XとYで交わるように仕組んでいく必要がある。

しかし、大抵の芸人は、XもYも分かっていないまま悩んでいる。だから売れない。でも、時として売れてしまうことがある。やっていること(X)は変わっていないのに、Y(=時代の空気)は絶えず変化していくので、いきなりそれが合致してしまうことがあるからだ。そして、その方が出会い頭の事故なので、インパクトが大きい。でも、大抵の場合は、偶然の事故なので、本人も自分がなぜ売れたのかわかっていない。公式がないから、根拠がない。

自分のXもYもわかっていないため、Y(=時代の空気)が移り変わると、必ず潰れてしまう。いわゆる一発屋になってしまうのだ。長く売れ続けている人間は、自分の強み(=X)を、必ずと言っていいほど軌道修正して時代の流れ(=Y)に合わせ続けている。だから、XとYの位置はいつも近い。なので、出会い頭の事故(大ブーム)になるようなことはない。せいぜい、接触事故。でも売れ続けることができる」(20ページ)

島田さんのお話は、自分の強み(X)が時代の空気(Y)に一致すると大ヒットするけれど、XとYが分かっていないと、Xはそのままで、Yが変わってしまうので、売れ続けなくなるという、ある意味、当然のことです。このXとYを経営学っぽく言い換えると、Xは内部環境、Yは外部環境ということになると思います。そして、内部環境と外部環境の両方を合わせて経営環境といいます。

事業を始めるときは、この経営環境を調査する、すなわち、環境分析をすることが定石ですが、島田さんもご指摘しておられるように、環境分析をしていないと、偶然、自社商品がヒットしても、その商品を売れ続けさせることができなくなります。そして、会社を起こす方の多くは、一発屋の芸人さんのように、環境分析をしていないので、自社商品が売れないか、売れたとしても、売れ続けさせることができないということが多いのだと思います。

そこで、起業しようとする経営者の方は、起業の前に環境分析をすればよいということになるのですが、私が中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じるのですが、環境分析をしようとする経営者の方はとても少ないです。それは、客観的な根拠はないものの、自社商品は必ず売れると経営者の方が考えているため、環境分析は不要と考えているからだと思います。また、起業した後の会社で、業績が不調の会社に、業績を改善するための方法を見つけるために、環境分析を行うことを提案しても、関心を示す経営者の方はあまり多くありません。

大抵の場合、「銀行から融資を受けるためには、環境分析が必要です」と、私から説明して、渋々実施するという感じです。これも、経営者の方は、顧客と直接会って契約を取ったり、新商品を開発するということには関心があるものの、環境分析に基づいて適切な経営戦略を立てるということにあまり関心がないからのようです。というのは、未だに、経営者とは現場のリーダーというイメージを持っている方が多いのでしょう。

そのような役割も必要ですが、本来は、適切な経営管理をするなどのマネジメントが基本的な役割であるにも関わらず、「自社商品は売れる」という思い込みの自信だけで事業に臨んでいる経営者は少なくないようです。もちろん、環境分析を行い、それに基づいて経営戦略を立てれば、必ず成功するのかというと、私は、経営戦略を立てても失敗することはあると思います。でも、環境分析も経営戦略策定も行わない会社に比べれば、成功する確率は格段に高まることは確かだと思います。

2024/9/8 No.2825

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?