組織はトップが求める方向に必ず向かう
[要旨]
三和建設の森本尚孝さんは、下請けはしないと考えていたものの、かつては、下請けをしていたことがありました。そこで、同社では下請けをしないことを明文化した結果、現在は下請けはなくなったそうです。このように、経営者の意思を明確にすることで、自ずとそれは結果に反映されます。逆に、もし、経営者の意思に反することが起きている場合は、経営者の意思が曖昧であり、明確になっていないからと言えます。
[本文]
前回に引き続き、今回も、三和建設社長の森本尚孝さんのご著書、「人に困らない経営-すごい中小建設会社の理念改革-」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、森本さんは、かつて同社がリストラを行った経験を通して、ひとこそが経営の中心であり、ひとの基盤さえあれば、少しのことでは会社は倒れないと実感したことから、利益のためにひとづくりをすると考えるのではなく、ひとづくりそのものが目的であると考えるようになったということについて説明しました。
これに続いて、森本さんは、経営理念は経営者の願望や価値観でなければならないということを述べておられます。「経営理念は、トップの願望や価値観そのものであると、私は思う。そして、組織はトップが求める方向に必ず向かう。今、改めてそのように思う。一例をあげると、創業時から三和建設の仕事は元請けが中心であるが(中略)、下請工事をせざるを得なかった時期がある。もちろん、下請けが悪いわけではない。わが社も多くの下請けを担う協力会社に助けられている。
しかしながら、私が不満を覚えていたのは、元請けを志向しながら、結果として下請けを行うという、一貫性の欠如に対してである。実際には当社がすべて工事を行うのだが、営業の経緯上、間にほかの会社が入ることがあった。それでも、当時のわが社の認識は、形式は下請け、事実上は元請け、なのである。私の嫌う表裏の使い分けの最たるものである。当時は業績が悪く、仕事や手段を選んでいる余裕ががなかったのも事実である。しかし、私は、あるときから、下請けをしないことを明文化した。現在は、少なくとも、新築工事においては1件も存在しない。
『今は業績がよいから、下請けをしなくてよくなった』と言われるかもしれないが、もし、下請けをしなことを決意して明言していなければ、今でも利益の上がる下請工事をいくつか続けていたに違いない。受注を最大目標にする営業の現場とはそういうものだし、そうあるべきだとも言える。経営者が意思決定を曖昧にしておきながら、望まぬ結果が現場に生じることを嘆くのは筋違いである。会社に生じることは、すべて、よいことも悪いことも、経営者に100%の責任があり、この結果責任は、誰ともシェアできない。会社で起きていることは経営者の願望による結果でもあるからだ」
私は、かつて、ある中小企業経営者から、次のような話を聞きました。すなわち、「うちの会社は、規模が小さいので、従業員は営業力のある人しか雇うことができない」というものです。これは、従業員の給与を支払えるようにするには、自らの給料以上を稼げる人を雇うしかないというものです。しかし、このような考え方は、私はまったく無意味だと思います。なぜなら、そもそも、自ら稼ぐ力がある人は、サラリーマンとして働こうとはしないからです。
ところが、その経営者は、自らの給料以上の利益をもたらす人を雇い、給料を支払った後の残りの利益は会社のものにしたいと考えているわけです。そして、このような自分に都合のいい考え方しかしない経営者のもとで働こうとする人は、いつになっても現れないのではないでしょうか?一方、森本さんは、「会社に生じることは、すべて、よいことも悪いことも、経営者に100%の責任がある」と述べておられます。
でも、私がお会いした経営者の方は、会社の利益が得られないのは、従業員の販売スキルが低いからであると考え、業績不振の原因を従業員に求めているのです。しかし、本当は、経営者自らが、魅力の高い商品を開発したり、または、商品の魅力を高めるための販売体制を整えるという役割を果たさなければなりません。ところが、業績に自分の責任はなく、経営者として本来の役割を果たすつもりもないと考えている人が経営する会社は、業績にその考え方が反映されて、ますます悪化してしまうでしょう。
すなわち、「会社で起きていることは、経営者の願望による結果」ということでしょう。もちろん、「会社で生じることは、すべて経営者の責任」というのでは、厳しいと感じられるかもしれません。ただ、よい結果が生じたときも、それもすべて経営者の手柄です。ですから、逆に考えれば、自分が変われば会社の業績も変わると考え、経営者は自らの職責を果たすことに全力を注ぐことが大切と言えます。これは、別の面からみれば、経営者の醍醐味とも言えるのではないでしょうか?
2024/1/28 No.2601